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米政権は貿易戦争の危険を冒すのか

トランプ米大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入増加が安全保障を脅かしているとして、両製品の輸入にそれぞれ25%、10%の追加関税を課す方針を明らかにした。

ルールに基づく通商秩序を乱し、貿易戦争につながりかねない極めて危険な決定である。改善傾向にある世界経済への悪影響も懸念される。撤回を強く求めたい。

今回の方針は安全保障を理由とした輸入制限を認める1962年の米通商拡大法232条に基づく。だが、輸入増加が米国の安全保障に悪影響をもたらしているとの見方は少なく、実際には国内業者の支援を目的にした保護主義的な措置とみていい。

詳細は来週発表される見通しだが、高関税の対象国は広範にわたるとみられている。欧州連合(EU)やカナダは、関税をかけられれば対抗措置を取る方針をすでに表明している。

鉄鋼やアルミを原材料として使う米国のメーカーなども強く反発しているが、当然だろう。米製造業の生産コストを引き上げ、消費者への価格転嫁などを通じて米国経済にも打撃を与えるからだ。

トランプ政権のなかでは中国の経済・通商政策への批判が強まっているとされる。中国に投資する企業に対する事実上の技術移転の要求や知的財産権の侵害、鉄鋼メーカーを含む国有企業に対する補助金などは確かに問題だ。

こうした中国の不公正な措置には、日米欧などが一体になって方向転換を求めるのが効果的だ。鉄鋼問題については、補助金など競争をゆがめる行為の除去をめざす多国間の閣僚級会合が設けられ、議論が重ねられている。

鉄鋼への高関税措置は、中国に不公正な慣行を見直すよう促す国際的な結束を乱すだけだ。高関税による痛みは、対米輸出シェアが高いカナダやブラジルなどの方が中国よりはるかに大きくなる。

トランプ大統領は2016年の選挙戦で、自由貿易の重視を掲げる従来の米国の通商政策の転換を訴えて、勝利を収めた。

それでも昨年は、環太平洋経済連携協定(TPP)から撤退したり、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を始めたりしたのを除けば、通商秩序を乱すような過激な決定は控えていた。

今回の決定は米政権の本格的な保護主義化の第一歩となる可能性がある。そうならば世界にとって非常に憂慮すべき事態である。

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