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まるで芸術 パブロバ、豪州とNZが発祥競うデザート

NIKKEI STYLE

1920年代にオーストラリアとニュージーランド(NZ)を公演に訪れたロシアのバレリーナ、アンナ・パブロワにちなみ、誕生したとされるお菓子がパブロバだ。バレエの衣装をイメージしたふわふわのメレンゲがひんやりした生クリームと混じり合い、口の中ですっと溶ける。パッションフルーツなど新鮮な果物を使ったソースの爽やかな酸味が、メレンゲの甘さをいっそう引き立てる。

発祥の地はどちら――。豪州とNZの国民は長年、自分たちこそパブロバの生みの親だと主張してきた。両国にとって、パブロバは国民的デザート。普段は経済や安全保障で密接に連携する両国も「これだけは譲れない」と論争が続いてきた。

「当店としては外交的に中立な立場をとっております」。シドニーの高級料理店、ロックプール・バー・アンド・グリルのマネジャー、ルアリー・マクドナルドさんは話す。同店の人気メニュー「キャサリンのパブロバ」はNZで生まれ、豪州で修業したシェフ、キャサリン・アダムスさんが2006年に豪州でレシピを開発したという。

両国の伝統と良さを取り入れたと思われる一品は、しっかり泡立てた卵白をオーブンで焼き、外はさくさく、中はマシュマロのようにふわふわ。甘さを抑えた生クリームに、パッションフルーツがとろりとかかっている。パッションフルーツのタネはカリカリと歯応えがある。

パブロバは家庭で簡単に作れ、夏の季節にあたるクリスマスには欠かせない。「軽く、爽やかな味が陽光あふれる豪州の気候に合う」とシドニー在住の料理研究家、ドナ・ヘイさんは語る。メレンゲは柔らかめか堅めか、トッピングの果物は何にするか。「皆が一家言を持っている」

家庭の味だったパブロバは、資源ブームをてこに豪社会が豊かになるにつれ、高級店が技を競う洗練された一品へと進化してきた。

オペラハウスにある有名店、ベネロングのパブロバは風にたなびくヨットの帆のようなメレンゲを幾枚も飾り、まるで芸術品。ベージュと白のクリームもオペラハウスのタイルを忠実に表現した。流行店のエスターは石窯で焼いたパブロバが人気。香ばしいメレンゲとジャスミン茶入りのクリームが深い味わいだ。

論争は08年にNZに軍配が上がり、決着したかに見えたが、最近になって「実は米国が発祥」とする説が浮上し、両国民をやきもきさせている。パブロバに似た菓子は世界中にあれど、これほど愛着を持つ国々は他にないだろう。

<マメ知識>果物は季節で使い分け
 豪州はパブロバに欠かせない新鮮な果物の宝庫だ。主流のパッションフルーツのほか、キウイや桃も合う。ベネロングの副料理長、シュイ・イシヅカさん(29)は季節によってラズベリーやストロベリー、赤い野菜のルバーブなどを使い分けている。
 パブロバ研究の第一人者、ニュージーランドのオタゴ大のヘレン・リーチ名誉教授によると、材料の卵白は「採卵後2~3日」のものが泡立てやすい。焼き上げたらオーブンの中でひと晩寝かせ、完全に冷やすのがおいしく作るコツという。

(シドニー支局 高橋香織)

[日本経済新聞夕刊2018年3月1日付]

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