2018年12月16日(日)

春秋

2018/2/23 1:17
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今週の火曜日、都内で1軒の本屋が歴史を閉じた。場所は都心にも近い住宅街である代々木上原駅前。店の名前は「幸福書房」という。家族経営ながら朝8時から夜11時まで営業し、本好きや地元の常連には「欲しい本が、なぜか必ず見つかる店」として知られてきた。

▼脱サラしてこの店を始めた岩楯幸雄さんが、著書「幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!」の中で手法の一端を明かしている。卸会社が選ぶ定番の配本に頼らず、客の顔を思い浮かべながら独自に本を仕入れる。たとえば鉄道ファンの客は26人か27人。面白そうな鉄道の本があれば、この人たちのため棚に置く。

▼買う顔ぶれはわかっている。しかし、いい本が入りましたよ、などと声はかけない。何にも煩わされず「自由に気持ちを広げられるのが本屋という場所」だと信じるからだ。書棚で客と会話をするつもりで経営してきたという。そうした工夫と努力を重ねた書店ですら、活字離れという向かい風には勝てず、閉店を決めた。

▼最後の夜、詰めかけた客に岩楯さんは「こんなに愛されていたとは」と声を震わせた。店に並べた本には、こんな挨拶を載せたしおりをはさんだ。「素晴らしいご縁に、心から感謝をしております。長年のご愛顧、本当にありがとうございました。幸福書房 一同」。街で育った店と客との幸福な関係が、また1つ消えた。

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