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春秋

鹿児島県南九州市の「知覧特攻平和会館」は、散華した若者の遺書を数多く展示する。婚約者のマフラーを巻いて出撃した大尉(23)は、「あなたは過去に生きるのではない」と彼女に新たな伴侶を探すよう諭した。特攻兵のほとんどが大正生まれであることに気づく。

▼大正世代は1912年から26年の生まれ。敗戦の年を19歳から33歳で迎えた。「大正生まれの俺たちは/明治のおやじに育てられ/忠君愛国そのままに/お国のために働いて……」。その名も「大正生まれ」という唄がある。生き残った者は、皇国の崩壊後、どのような倫理に従って生きるのか、を問い続けることになる。

▼評論なら吉本隆明、小説では島尾敏雄、俳句は大正8年(1919年)生まれのこの人だろう。おととい98歳で亡くなった金子兜太さん。「水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る」は南洋トラック島からの復員船で詠んだ。非業の死を遂げた戦友が眠る島へと続く白い航跡を魂に刻んだ。自由な社会を希求する句作の原点だ。

▼兜太さんは晩年、一茶が残した「荒凡夫(あらぼんぷ)」という言葉を好んだ。荒を「粗野な」の意味でなく「自由」と読む。凡俗だが自由で、人さまに迷惑をかけない存在、と解釈し、生の指針とした。大正生まれのなんとすがすがしい到達点だろう。「合歓(ねむ)の花君と別れてうろつくよ」。荒凡夫の愛に満ちた句を胸に、お別れしたい。

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