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春秋

1969年夏、東京・音羽にある講談社での出来事。真夜中、「少年マガジン」の編集部に、男がぬうっと入って来た。見間違えるはずもない。作家の三島由紀夫だった。三島はこう言った。「マガジンを売ってほしい。『あしたのジョー』を、明日(あした)まで待てないんだ」

▼この日はマガジンの発売日。だが映画の撮影があり三島は買いそびれてしまったらしい。当時、副編集長だった宮原照夫さんにうかがった話だ。大好きな漫画を早く読みたい。そんな気持ちは今も昔も変わらないということか。インターネット上には人気漫画を発売日よりも早く読ませる「ネタバレサイト」があるそうだ。

▼こうしたサイトは発売日前に漫画誌を売る店を探して手に入れ、それをネットに流す。一時は乱立していたが、警察が摘発に乗り出し、最近では収まっているという。だが「早読み」とは別に、無許可で漫画をネットに掲載する海賊版サイトもある。人気作品をただで読まれてしまうと、出版社のダメージは大きいだろう。

▼裏付けるようなデータを先月、出版科学研究所が発表した。出版不況の中で最後の砦(とりで)だったコミックスの販売が、前年比13%マイナスで初めて2桁の減少を記録したという。ネット上の不法行為が日本のキラーコンテンツを衰退に追い込んでしまわないか。「ジョー」に熱中した泉下の三島も、さぞ憤っているに違いない。

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