揺れるフェイスブック メディアとの蜜月、岐路に
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
月間の利用者が全世界で20億人を超えるというSNS(交流サイト)最大手のフェイスブックが揺れている。同社は1月11日、企業や各種メディアからの投稿の表示を抑制するという、大きな戦略転換を発表した。一般的なニュースに代わり、友人や家族など、ユーザーとの関係がある人々からの情報を優先して表示していくというのだ。
しかし同20日には、ニュースの表示は続けるものの、品質や信頼性による選別を強めると表明。事実上の修正とも読める発表をした。
フェイスブックには「ニュースフィード」と呼ばれる情報表示画面がある。フォローしている友人や家族が投稿する情報に加えて、企業や各種メディアからの投稿も表示する。つまり、知人らの個人的(パーソナル)な話題から、企業やメディアが一般向け(パブリック)に発信する動画や記事などが混じり合って、現れては消えていく。
ユーザーはニュースフィードを眺めていれば、パーソナルな話題から、いま注目されているパブリックな話題まで触れることができるわけだ。1月11日の発表は、ここからパブリックな情報を大幅に減らすとするものだった。
理由を同社最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏が自らの投稿で説明している。それによれば、同社が研究者らと行った調査では、ユーザーが興味を持つ情報だけを長時間、受動的に消費するような利用は「SNS中毒」のような副作用を引き起こす懸念がある。一方で、知人らの投稿は、「いいね」などの反応や新たな投稿といった、SNS本来の能動的な行動を引き出すというのだ。
もっともな話だが、黙っていられないのが、表示を減らすと一方的に宣言されたメディアの側だ。情報があふれかえるインターネットで、記事を広く的確に伝えていくには、検索エンジンとSNSは欠かせない。
フェイスブックの側もつい最近までニュースや動画を、ユーザーへの集客材料として積極的に取り込んできた。その結果、米国の例では、有名なメディアへの読者の流入源としてフェイスブックが最大だった。2017年で約4割との調査がある。SNSをビジネスの原動力としてきたメディアにとり、方針転換は死活問題だ。

さらに、「パーソナルな話題」のほうが「パブリックな話題」より価値が高いとするのも、多くのメディアの価値観と相いれるものではない。当然、フェイスブックを批判する論調が高まっている。2回目の発表は反発や批判を受けての方針の修正とも見える。
フェイスブック自体には、パブリックな話題から早いうちに撤退したい事情がある。米大統領選で公然化した、ニセニュース問題やロシアの政治工作は、フェイスブックなどのSNSを舞台にしたと批判を受け続けているからだ。いまも、政治的な投稿をどう扱えばいいのかといった難しい判断を迫られている。
パブリックな情報が重荷となったいま、身近な者どうしの交流へと原点回帰したくなるのも自然だ。フェイスブックはしばらく揺れそうだ。メディアは、長く続いてきたSNSとの蜜月の時代が、次を見通せないまま、唐突に終了を迎える懸念に直面している。
[日経MJ2018年2月4日付]