春秋

2018/1/29 1:11
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昭和30年代の東京の区分地図をときどき眺めて、タイムスリップを楽しんでいる。いまは消えた伝統的な町名がびっしり並び、たとえば上野駅周辺だと五条町、三橋町、同朋町……。「黒門町の師匠」と呼ばれた落語家の八代目桂文楽が暮らした元黒門町の名も見える。

▼江戸や明治から続く、こういう町名をばっさり成敗したのが住居表示法だ。町の統廃合がどんどん進み、どこもかしこも「○○何丁目」になった。流れに抗した千代田区の神田界隈(かいわい)などは古い町名が残るが、神田三崎町と神田猿楽町は「神田」の2文字を外されてしまった。たんなる三崎町、猿楽町となって半世紀がたつ。

▼ところが今年の元日、両町に「神田」がよみがえった。地元の要望を受けて十数年、区は住民の意向を調べ、識者の声を聞き、ようやく復活に踏み切ったのだ。住居表示審議会が開かれたのは34年ぶりだったというから、失われたものを取り戻すのは何と難事業か。色あせた区分地図から抜け出せぬ、ゆかしい町々である。

▼三崎町と猿楽町の「神田」復活には反対も多かった。あちこちに余計な負担がかかるのに何をいまさら、といった指摘だ。神田と付くと下町っぽくなり不動産価格に響く、と案ずる人もいるらしい。黒門町、いや上野2丁目の師匠なら得意の迷文句を吐く場面だ。困ったもんですな、べけんやべけんや、あばらかべっそん。

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