2018年10月22日(月)

遺伝情報はルールに沿って活用を テック社会を拓く

2018/1/13 21:10
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生命の設計図ともいわれるゲノム(全遺伝情報)を、がんや難病の診断・治療に応用する動きが広がってきた。「テック社会」が医療を大きく変えようとしている。究極の個人情報であるゲノムは取り扱いに注意が必要だが、ルールを明確にして上手に活用したい。

法改正で規制対象に

病気の多くは遺伝子の異常で起きるため、ゲノム解析は原因の把握や最適な治療に役立つ。日本は米欧に比べ導入が遅れたものの、国立がん研究センターなどでゲノムに基づく治療が始まった。

ただ、ゲノムは一人ひとりの顔かたちや性格などと密接に関係する個人情報だ。人工知能(AI)などを駆使すれば一部の情報からでも個人を特定できるとされる。本人の知らぬ間に悪用される事態は防がねばならない。

2017年5月に施行された改正個人情報保護法がゲノムを個人情報の一種とみなし、規制の対象としたのは妥当だ。名簿情報と同じように、第三者への提供はあらかじめ本人の同意取得が義務付けられることなどを明記した。

18年春には、ゲノムを含む膨大な「医療ビッグデータ」を研究開発に効果的に使うための「次世代医療基盤法」も施行される。どちらかというとブレーキ役の個人情報保護法に対し、次世代法はアクセルにもたとえられる。

次世代法により、医療機関などは個人を特定できなくするための情報の匿名加工を認定事業者に委託できるようになる。自前の設備や人材をそろえずにすみ、情報を大学や企業に提供しやすくなる。

AIに大量のがんの診断画像を分析させて特徴を導きだしたり高度な統計処理をしたりして、よりよい診断や治療につなげる研究開発が加速するだろう。それには信頼できる優良な加工事業者の選定が不可欠だ。経営破綻による情報流出などがあってはならない。

難病研究などでは国内の症例だけでは不十分で、海外とのゲノムデータの交換が必要な場合も多い。個人情報保護などに関する法制度の国際調和が課題となろう。

既に欧米の研究機関が中心となり、データの整理方式の共通化やインターネットによる相互利用システムの運用を試みている。日本医療研究開発機構などは各国との連携を密にし、後れをとらないようにすることが重要だ。

ゲノムの医療応用には負の側面もある。検査で予期せぬ遺伝性疾患の可能性など、知りたくない情報までわかってしまう場合だ。病気の不安は本人だけでなく、子や兄弟姉妹にまで広がりかねない。

ゲノムから読み取れる病気のリスクやその信頼性はどの程度で、発症や悪化は防げるのか。数々の疑問に専門のカウンセラーが丁寧に答える態勢が欠かせない。

日本人類遺伝学会などが認定遺伝カウンセラー制度を設けたが、有資格者は全国で220人程度と少ない。仕事内容への理解も不十分だ。国をあげて認知度を高め、人材育成に取り組む必要がある。

ゲノムから得られた知見と遺伝子を容易に操作できるゲノム編集の技術が合わさり、従来考えられなかったこともできるようになってきた。注目されるのが、受精卵のゲノム編集により子どもの病気を未然に防ぐ方法だ。

生命倫理の議論も重要

現状では不完全な遺伝子操作のため障害をもった子が生まれる危険があるが、技術の改良は急ピッチだ。欧米や中国では出産にこそ至っていないものの、人間の受精卵にゲノム編集を施した研究報告が相次いでいる。

いずれ、特別な才能を持つ子をつくるためにゲノム編集を希望する親も現れるだろう。「デザイナーベビー」の技術的なハードルはかなり下がっている。

忘れてはならないのは、受精卵操作の影響が子々孫々にまで及ぶということだ。人類の進化の歴史に人の手が入り、「神の領域」に踏み込む行為ともいえる。

内閣府の生命倫理専門調査会が昨年、ゲノム編集した受精卵による出産を禁止する方針を示したのは当然だ。もっとも、海外で研究例が出てから慌ててルールを巡る議論を本格化したのが実情だ。

関係省庁は技術動向を見極め、先回りして課題を検討できる態勢を整えてほしい。ゲノム編集のような技術をどこまで受け入れるのか、広く国民が議論できる場を設けることも必要だ。

(おわり)

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