2018年7月20日(金)

論理的思考を磨いて人材に厚みを

2018/1/12 22:50
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 人工知能(AI)やロボットなどを上手に利用する「テック社会」の実現には教育や人材育成がカギを握る。新しい技術について多くの人が基本的な知識をもち、正体の知れないブラックボックスにしないことが肝要だ。

 それには子どものころからロボットなどに親しみ、技術との向き合い方を学ぶ教育が欠かせない。論理的な思考法や倫理を養う教育で人材を厚くし、世界に通用する研究開発の担い手も育てたい。

文理の垣根を払え

 埼玉大学教育学部の野村泰朗准教授らは年に7、8回ほど、小中高生を集めて泊まりがけでロボットやプログラミングを教える集中講座を開いている。

 昨年末にさいたま市で開いた講座では人と対話できるロボットを作った。小学生にとっては高度な課題だが、指導は最低限にとどめて設計などを考えてもらい、2日がかりで完成させた。

 講座は「STEM教育」と呼ばれる教育法を取り入れている。科学、技術、工学、数学の英語の頭文字をとって命名され、米欧などで広がりつつある。「理系・文系と分けるのではなく、皆に論理的な思考法を身につけてもらうのが目的」(野村准教授)だ。

 日本の教育は知識の習得に偏り論理的思考を磨くことは軽視されてきた。例えば学校で統計の読み方は学ぶが、データの集計法まで遡って真偽を確かめることは教えない。ビッグデータの利用が本格化しているが、データの扱い方を体系的に学んだ人は少ない。

 文部科学省は2020年度から小学校でプログラミング授業を必修にする。算数や理科、総合学習などの授業の中で、プログラミングに必要な思考能力を養ってもらうことが狙いだ。

 だが課題は多い。プログラミングの指導経験がない教員が大多数を占めるなか、カリキュラムを柔軟につくれるのか。教え手を外から招くにしても、日本のIT(情報技術)専門家は人手不足だ。

 重要なのが、社会人が学び直せる「リカレント教育」の拡充だ。論理的な思考法は理工系出身者の専売特許ではない。文系出身者がプログラマーとして活躍することも多いように、社会に出てから学び直せる。

 インターネットを使ったオンライン教育を活用するのは一案だ。大学の授業をネットで配信する大規模公開オンライン講座(ムーク)の受講者は世界で5千万人を超えた。日本版ムークでも「統計学」「データサイエンス」といった授業が配信されている。これらを積極的に利用したらどうか。

 テック社会をけん引する最先端の研究開発に携わる人材を育てる必要もある。

 車の自動運転のように、モノと情報が融合する分野から新たな技術が生まれている。だが理工系大学では機械や電気などモノづくり系の学部・学科と、情報通信などIT系の学部・学科の縦割り意識が根強く、研究者同士の連携も少ない。

 この反省から学部や学科を再編する動きが出ている。金沢大は今年春、AIやロボット、新素材などを横断的に研究する「フロンティア工学類」を新設する。滋賀大や横浜市立大のようにデータ科学の専門学部を設ける動きもある。

社会全体で倫理規範を

 日本は欧米などに比べAIやコンピューター科学の研究者が少なく、論文発表でも劣勢が続いている。大学の研究組織を見直すことから巻き返しにつなげたい。

 「人工知能は人間社会にとって有益なものでなければならない」。研究者ら約4千人がつくる人工知能学会は昨年、学会として初の倫理指針を定めた。

 学会員が法規制や他者のプライバシーを守る義務を明記し、研究の産物であるAIに対しても「社会の構成員になるためには、学会員と同等に倫理指針を順守できなければならない」とした。

 一方で社会全体を見ると、AIに仕事を奪われるのではないかといった脅威論や警戒心が強い。AIとどのように共存していくか、社会の合意はまだできていない。

 人と技術の役割分担をどうするか。それを考えることは、人にしかできないことは何か、人の尊厳とは何かを考えることでもある。こうした倫理面についても若いころから学べる機会を増やし、社会的な規範をつくる必要もある。

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