2018年1月24日(水)

技術革新に合わせた労働政策を テック社会を拓く

社説
2018/1/9付
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 人工知能(AI)やロボットが普及する「テック社会」には失業が増える懸念もある。新しい技術を使いこなして成果を上げる人とそうでない人とで、賃金の差が広がることも考えられる。

 雇用を安定させ、働く人の二極化を防ぐために、手を打たなければならない。職業訓練などの労働政策を、技術革新が急速に進む時代に合ったものに改めるべきだ。

重み増す職業訓練

 AIやロボットは生産性の向上に役立ち、労働時間の短縮が進めば女性や高齢者が働きやすくなる利点もある。経済を持続的に成長させるには、これらを積極的に活用する必要がある。

 一方で定型的な仕事は機械に置き換わる例が増えよう。すでに銀行・保険会社の事務やホテルの受付業務などで動きがみられる。

 AIやロボットが雇用に及ぼす影響をめぐっては、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体で9%の職業がAIなどに代替される可能性が高いと、ドイツの研究者らは試算している。

 ひとつの職業を構成する仕事には自動化が難しいものがあることを考慮したという。米国や日本では雇用の半数近くが機械化されるとした別の試算に比べればこの数字は低い。だが9%でも、雇用への影響は大きい。

 AIやロボットは、それらを活用した事業に携わる人たちの雇用を創出することにも着目する必要がある。三菱総合研究所によれば、日本では2030年までに740万人の雇用が失われる一方、500万人の雇用が生まれる。

 重要なのは第1に、働く人の能力開発だ。正社員、非正規社員を問わず、いまの仕事がなくなったり減ったりしても、別の仕事ができるようにしなくてはならない。

 AIをはじめIT(情報技術)を駆使して新しい製品やサービスを創造する力を身につければ、活躍の場は広がる。

 第2に、人材が需要のある分野へ移っていきやすい環境づくりだ。技術革新で仕事が生まれる分野は新たな雇用の受け皿になる。

 労働政策でいえば国や都道府県による公共職業訓練の充実と、柔軟な労働市場の整備の2つが大きな課題になる。

 能力開発ではもちろん企業が、AIを商品開発や販売に生かすための知識や技能を社員に養わせる必要がある。あわせて公共職業訓練も、失業者向けが中心の現状を見直して、在職者が学びやすい内容にすることが求められる。

 たとえば退社後の時間帯を使ったIT分野などの講座を拡充したい。自宅で学習できるオンライン講座も設けるべきだ。

 日本企業の人材育成はこれまで、自社だけで役立つ「企業特殊的」な技能の習得が主体だった。

 しかし、AIや業務効率化のシステムはどの会社でも使えるものが広がり始めており、「企業特殊的な技能が次第にいらなくなる可能性がある」と山本勲・慶大教授は指摘する。社外での職業訓練の役割は重みを増そう。

 柔軟な労働市場づくりでは、民間の力を引き出して職業紹介の機能を強化する視点が大事だ。

先行するドイツ

 ハローワーク業務の民間開放を進めれば事業者間の競争を促し、人材仲介サービスの質が高まる。IT分野をはじめ介護・医療関連や教育など幅広い分野へ人が移りやすい環境づくりを急ぎたい。

 ドイツ政府は16年、デジタル時代の労働政策を軸とした白書「労働4.0」を発表した。失業前からの継続的な職業訓練や、雇用の受け皿となるサービス産業の労働条件改善などを挙げている。日本も技術革新を踏まえた総合的な労働政策を打ち出してはどうか。

 職業訓練などが利用しやすくなっても、本人の意欲が高まらなければ効果が薄いのも確かだ。リクルートワークス研究所の調査によると、正社員で「継続的な学習習慣のある人」は17.8%にとどまる。自分の将来ビジョンを描き、能力開発に励む人は少数派だ。

 働く人本人の意識改革が重要になる。「いつ転勤を命じられるかわからず、人事評価も基準が明確でないなど、会社のルールの不透明さも学ぶ意欲をそいでいる」と大久保幸夫・同研究所長はみる。

 年功色の強い人事処遇制度は早急に見直すべきだろう。学び続けるのに適した環境になっているか、企業も点検を求められる。

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