2018年7月20日(金)

負の影響も直視し議論を深めよ

2018/1/7 23:25
保存
共有
印刷
その他

 人工知能(AI)やビッグデータ分析といった技術が研究開発から、実用化の段階に入ってきた。先進技術を使うことにより企業が提供する製品の付加価値が高まり、社会全体の効率化も進む。一方、倫理面の問題やプライバシーの侵害が生じる懸念もある。

安心と安全が前提

 技術を幅広い分野に応用する「テック社会」を実現するには、安心や安全の確保が前提となる。技術を利用してどのような社会をつくりたいのか。どこまでの変化を許容し、何を拒むべきなのか。負の影響も直視し、議論を深めるべきだ。

 ソフトバンクは2017年5月、新卒採用にAIを利用する試みを始めた。学生が提出したエントリーシートをAIが分析し、合否を判定する。人手に頼っていた前年までに比べて必要な時間を75%減らすことができたという。今年から全面的に導入する予定だ。

 ただしAIが不合格と判断したエントリーシートも人手で再確認し、「敗者復活」の道を残している。先進技術だけに頼らない背景にあるのは、AIの開発と導入がいち早く進んだ欧米の動きだ。

 雇用や与信、処罰といった人生を大きく左右する重要な判断に際しては、人が介在することを求める動きが強まっている。

 AIは精度が飛躍的に向上した一方で、間違うリスクも残っている。AIの性能を高めるにはビッグデータを読み込ませる必要があるが、このデータに偏りがあると、「物差し」がゆがむことも明らかになっている。先進技術は差別や、社会的な格差の固定を生むおそれもある。

 歴史的に個人の権利保護への意識が高い欧州では今年5月、罰則規定を伴う「一般データ保護規則(GDPR)」と呼ぶ新たなルールが導入される。このなかに「自動処理だけで重要な決定を下されない権利」を明記した。米ウィスコンシン州最高裁は16年、裁判所によるAIの利用を制限すべきだとの判断を示した。

 日本でも17年に個人情報保護法が改正されたが、慶応大の山本龍彦教授は「情報漏洩の防止に重点が置かれており、個人の権利保護などに関する議論は立ち遅れている」と指摘する。

 インターネットの普及から分かるように、技術は想定を上回る速度で広がる。議論を急ぐべきだ。

 まず大切なのは、論点を整理することだ。たとえばAIの議論では人間の知性を上回るような「汎用型」と、画像や音声の認識といった「特化型」を混同する傾向がみられる。汎用型は開発の可否や実現の時期について専門家の意見が食い違っており、普及が近い技術の議論を優先すべきだ。

 AIなどの先進技術が社会に及ぼす影響は大きく、議論には学識経験者や市民団体、企業など幅広い関係者が加わる必要がある。なかでも重要なのは企業の役割だ。

 ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長は「民間企業による最先端のAIの開発が増えており、社会が受け入れ方を議論するうえでも企業の貢献が重要になっている」と話す。

企業の役割が重要に

 ソニーは17年、米IT(情報技術)企業が共同で設立したNPOに加盟し、AIへの懸念の払拭や普及に向けた議論を始めた。

 企業は先進技術がブラックボックスになることに利用者が不安を感じていることを理解し、AIが判断した理由を分かるようにするといった取り組みを進める必要がある。技術の負の側面も含めて情報開示を徹底し、集めたデータの使い道もはっきり示すべきだ。

 IT企業のエブリセンスジャパン(東京・港)は17年、位置情報や移動距離といった個人情報の提供に同意した利用者と、データを必要とする企業を引き合わせる事業を本格的に始めた。利用者は同社の運営する市場を通じて、スマートフォンなどで収集したデータを売ることができる。

 エブリセンスの真野浩・最高技術責任者は「これまで利用者は無意識にデータを渡していたが、同意に基づいて提供し、正当な対価を得るべきだ」と主張する。

 ビッグデータ分析の技術が向上し、データの持つ価値が高まっている。利用者がこうした変化への理解を深めて主体的に行動することも、技術を活用した便利で豊かな社会をつくるのに欠かせない。

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報