2018年10月22日(月)

春秋

2018/1/1 1:14
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「ひたむき」「ひたすら」「ひた走る」……。日本語には、「ひた」を冠した言葉がいくつもある。漢字をあてると「直」。いちずな状態や、そればかりであることをあらわす、大昔からの表現だ。だから「ひたくれない」といえば、紅色が一面に広がった様子を言う。

▼歌人の斎藤史はこの言葉を使い、代表作を残している。「死の側より照明(てら)せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも」。一瞬どきりとする「死」を詠みつつ、そこから「生」を照らし出して命の輝きをたたえたのだ。二・二六事件に連座した陸軍少将の父を持ち、激動の昭和を生きた女性ならではの洞察だろうか。

▼平成30年――節目の年が明けた。天皇陛下の退位を控え、平成がまる1年続く最後の年である。ここを過ぎて、昭和の記憶もいよいよ遠ざかるに違いない。さまざまな回顧と決意が胸に満ちようが、忘れてならないのは、時代のなかのたくさんの死だ。今生の「ひたくれない」の陰に、戦争や震災で果てた多くの命がある。

▼ひたむきに、ひたすら疾走してきた近現代の日本も、平成に入ったころからいささか疲れがにじみ、失敗や弱点の「ひた隠し」も珍しくなくなった。けれどこの歴史の転換点に、栄光も悲惨も虚心に顧みて次の一歩を踏み出したいものだ。斎藤史の歌をもう一首。「野の中にすがたゆたけき一樹あり風も月日も枝に抱きて」

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