2019年6月20日(木)

春秋

2017/12/29 1:13
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ページをめくって、僕は目のくらむような衝撃を感じた――。藤子不二雄さんは自伝でこう書いている。手塚治虫の長編デビュー作「新宝島」に出会ったときの感動だ。「まるで映画を観(み)ているみたい」と。のちに戦後マンガの原点ともたたえられた、伝説的な一冊だ。

▼世に出たのは昭和22年というから、70年前のこと。戦火が残した破壊と敗戦がもたらした衝撃で、日本はどん底ともいえる状況にあった。一方で、ようやく訪れた平和のもと新たな時代を切りひらこうという機運が高まっていた、そんな印象もある。当時まだ20歳になっていなかった手塚の「新宝島」は、その一例だろう。

▼石ノ森章太郎さん、赤塚不二夫さん、さいとうたかをさん……。たくさんの著名マンガ家たちが、多感なときに「新宝島」から受けた刺激について語っている。マンガ家だけではない。小松左京さんや横尾忠則さん、宮崎駿さんたちも。どれほど広く深い影響を日本の文化におよぼしたのか、はかりしれないところがある。

▼いま、マンガは曲がり角にさしかかったようにみえる。出版科学研究所によれば、紙のマンガ単行本の売り上げはことし、前年比で1割以上も減りそうだという。電子書籍の普及やゲームの台頭などが背景にあるようだ。出版業界には逆風だが、新たな時代の到来も感じさせる。手塚のような才能の登場を期待したくなる。

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