2018年1月20日(土)

人口減に健全な危機感をもっと

社説
2017/12/27付
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 アベノミクスの5年はいくつかの点で日本経済を大きく好転させた。日経平均株価は2万2千円台に上がり、労働市場は完全雇用を達成してあまりある。来日客数は3千万人乗せが時間の問題だ。

 米国、中国などが先導する世界経済の拡大に助けられた面はあるが、企業経営者はおしなべて自信を取り戻したと言ってよかろう。

 だがその陰で日本の経済社会をむしばむ構造問題には、ほとんど手がついていない。人口減少である。人口減への健全な危機感を個人、企業、政府・地方自治体が三位一体になって強めるべきだ。

和歌山県が毎年消滅

 歴史人口学をひもとくと、20世紀初めに4400万人弱だった日本の総人口は1967年に節目の1億人を突破し、今世紀初めに1億2800万人の頂点に達した。

 仮に、男女の年齢別生存率と合計特殊出生率が2004年の水準のまま推移し、かつ移民を受け入れないとすれば、22世紀初めの総人口は4100万人台に減る。過去1世紀の増加分が帳消しだ。

 出生数が死亡数を下回る自然減はすでに定着している。戦後ベビーブーム期に生を受けた団塊の世代のすべてが後期高齢者になる25年を、安倍政権は財政と社会保障の難所と位置づける。しかし本当に苦しくなるのは、それ以降だ。

 国立社会保障・人口問題研究所は40年からの20年間に総人口が1808万人減ると推計する(17年推計)。単純平均すると年間の減少数は90万人強だ。たとえれば和歌山県ほどの自治体が毎年一つずつ消滅するほどの衝撃である。

 少子高齢化を伴いながら人口減少が加速することは、今世紀に入る前からわかっていた。その間、日本の人口政策はぶれ続けた。

 昭和初期にかけては産児制限運動が盛んになった。政府は移民送り出しを奨励し、毎年2万人ほどが南米などへ渡った。日米開戦を前にした1941年には逆に「産めよ殖やせよ」の号令の下、60年までに総人口1億を達成させる人口政策確立要綱を閣議決定した。

 過剰論が再び台頭したのは敗戦後だ。48年の優生保護法成立を経て、経済的理由による人工妊娠中絶の合法化が出生率低下のきっかけの一つになった。74年の日本人口会議は「子供は2人まで」と、大会宣言にうたった。

 70年代前半の第2次ベビーブーム期を過ぎ、出生率は行きつ戻りつしながらも緩やかに降下した。89年にはついに1.57に下がり、66年丙午(ひのえうま)の1.58を下回った。バブル景気のまっただ中、経済への負の影響を心配する声はかき消されがちだった。

 今や年間出生数は百万人の大台を下回っている。かたや子供を2人以上もちたいと考える夫婦は少なくない。厚生労働省の成年者縦断調査(16年)の結果によると、この4年間に第1子をもった夫婦は夫の79%、妻の72%が第2子、第3子をもちたいと考えている。

 産むか否かは各人の選択だ。政府が督励するのは論外である。望んでも授からない人もいる。一方で、調査が浮き彫りにした潜在的な希望をかなえる策は不可欠だ。

 着目すべきは医療・介護や年金制度が内包する世代間格差だ。学習院大の鈴木亘教授が一定の前提をおいて試算したところ、1945年生まれは3制度合計の生涯収支が3370万円の黒字に対し、2010年生まれは3650万円の赤字になる結果が導かれた。

若い男女の後押しを

 負担・受益の両面で高齢層が有利な状況はある程度は致し方ないが、これだけの格差の放置は将来世代への責任放棄ではないか。

 3点、提案したい。

 まず社会保障改革の断行だ。たとえば医療の窓口負担は、年齢で差をつけるやり方から収入・資産をもとに決める方式に変えるべきだ。巨費をかけてマイナンバーを導入したのは、そうした用途に使うためではなかったか。

 次に子育て支援の強化だ。政府・自治体や経済界を挙げて待機児童を減らすのは当然として、とくに企業経営者は従業員が暮らしと仕事を無理なく両立させられる環境づくりに意を用いてほしい。

 最後にこれから生まれてくる世代への支援だ。夫婦が出産を諦める理由のひとつに晩婚化がある。結婚を望む若い男女を後押しするには、就労支援などを通じて出産の機会費用を下げるのが有効だ。

 振り返れば、私たちの暮らしを豊かにし、社会を安定させる原動力として人口政策をとらえる発想は乏しかった。人は言うまでもなく国力の源泉である。望む親が2人、3人――と、無理なく子供を増やせる環境を整えてゆきたい。

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