2018年7月18日(水)

起業家の背中 若者変える
SmartTimes (久米信行氏)

コラム(ビジネス)
2017/12/22付
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 「長銀(日本長期信用銀行)が潰れたのは、商売人の子どもを採らなかったからだ」。ソフト化経済センター理事長や東京財団会長などを歴任した論客、日下公人先生にそう言われて驚いたことがある。

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目会長。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学経営情報学部「SNS論」客員教授

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目会長。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学経営情報学部「SNS論」客員教授

 日下先生は長銀の取締役だった。人事部長に「どんな小さな商売でもいいから経営者の子息を採るように」と進言したが「そんな志望者は当行には来ない」と聞き入れられなかったらしい。結局、有力大学の卒業生を集めたにもかかわらず、長銀は破綻した。

 私が母校の慶応義塾大学ではなく、明治大学でベンチャービジネス論を教える道を選んだのは「受講生に商売人の子どもが多いのではないか」という読みがあったからだった。

 我が身を振り返っても、商売人である親の背中から学ぶことは多かった。時には夜を徹してでも働き、お客様やお取引先の信用を大切にし、商売繁盛を目指して泣き笑いする親の生きざまは、起業家にとって生きた教科書である。

 「職住一致」の環境で育てばビジネス「仮免許」を取る早熟な学生もいるだろう。少なくとも、新事業立ち上げ期に寝食を惜しんで働く姿を「ブラック」と考えることはないはずだ。

 しかし、当ては外れた。親が経営者という学生は数%なのである。わが愛すべき受講生の多くは、商売人や起業家を身近に見たことがないのだ。元気な大人、未来や夢を語る大人にも会ったことがないらしい。個室とスマートフォン(スマホ)を早くに与えられたせいか、大人とコミュニケーションした経験もほとんどないという。

 受講生にできることは何かと考えた。「元気な大人たち、それも様々な分野で活躍する起業家やプロフェッショナルに出会ってもらおう。その生きざまに共感してもらおう」。起業家はもちろん、大企業や行政で新しい試みに取り組んでいる「イントレプレナー」まで、数多くのゲスト講師が喝を入れてくれた。

 リポートを見ると、初めて出会う生き方や話に、学生たちは心を動かされているとわかる。心が動かなければ体は動かない。心を動かせる起業家が教育現場に必要なのだ。できれば若者たちには、大学ではなく、中学・高校時代に起業家やプロと出会ってほしい。

 私が所属する東京商工会議所墨田支部では、阿部貴明会長の発案により、経営者に地元の中学校で講師を務められるかを聞いたり、職場・工場見学の可否を尋ねたりしてデータベースにした。私もボランティアとして登録して、何度か地元の中学校で熱く語った。

 ぜひ全国各地の商工団体と教育委員会は、若者活性化案や起業家増殖案として、地元の商売人や起業家を学校に派遣する制度をつくってほしい。月1回でも、元気な大人たちの夢と熱弁に触れたら、きっと若者たちは変わるはずだ。

[日経産業新聞2017年12月22日付]

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