受信料合憲でも課題山積だ
テレビを持つ人はNHKと受信契約をしなければならない――。受信料支払いの根拠となる放送法のこの規定は、契約の自由を保障する憲法に違反しないのか。議論が続いていた問題に、最高裁が初めて判断を示した。
結論は「合憲」である。NHKが受信契約に応じない東京都内の男性を相手に起こした裁判で、最高裁が出した判決は「受信契約を結び、受信料を支払うのは法的義務」というものだった。
災害時の報道でNHKが果たしてきた役割などを考えると、この判決が理解できないわけではない。だが、NHKの公共放送としての役割を定めた放送法ができた1950年に比べて、放送や通信をめぐる環境は大きく変わっている。変化をふまえて、NHKのあり方について議論を深める必要がある。
インターネットやスマートフォンの普及により、情報を伝える手段は多様になっている。災害時にツイッターやフェイスブックといった交流サイトを通じて情報を得る機会も増えてきた。
娯楽の多様化を背景に、視聴者のテレビ離れも進んでいる。とくに若年層でこうした傾向が強い。今回の判決によって一時的に受信料の未払いが減ったとしても、テレビを視聴する習慣が薄れてしまえば公共放送の足元はぐらつきかねない。
職員が家庭を訪問して受信契約を結ぶ活動も難しくなっている。単身世帯やオートロックを備えたマンションが増えたためだ。
多くの課題がある中でまず必要なのは、現在の技術や社会環境を前提に、公共放送の役割を定義し直すことだ。そのうえで適正な業務の範囲を定め、公平な費用負担のあり方を探る必要がある。
利害関係者が多く、自らの力をそぐ可能性もあるため、総務省やNHKはこうした議論を避けてきた。だが問題の先送りは限界に近づいている。NHKが公共放送としての役割を果たし続けるには、本質的な議論が不可欠だ。