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医療の持続性を危うくする診療報酬増額

国の2018年度予算編成の焦点である診療報酬改定について、安倍政権は全体で小幅に減額改定する一方、主に医療職の人件費に充てる診療報酬の本体部分は増額改定する方向で調整している。

診療報酬は本体部分と薬価に大別できる。医療制度と国の財政の持続性を高めつつ、現役の働き手が健康保険料を無理なく払える水準に収めるために、私たちは薬価だけでなく本体部分も減額改定するのが望ましいと主張してきた。政権の考え方に異を唱えたい。

財務省は18年度の社会保障費が17年度当初より6300億円増えると見込んでいる。厚生労働省はこの伸びを政権の目標である5千億円程度に圧縮できる水準に見合うまで薬価を下げる考えだ。

目標達成にメドをつけつつあるため、本体部分や介護報酬は増やせるという緩みが政権内に生じているが、このような辻つま合わせでは医療の持続性は保てまい。

この20年ほどのデフレ経済のもとで、産業界の賃金水準はほぼ横ばいが続いた半面、診療報酬の本体部分の水準はなだらかに上昇した。にもかかわらず18年度も増額改定するのは、与党の支持基盤である医療団体とその意を受けた族議員への配慮があるからだろう。

デフレ脱却へ向けた政権の賃上げ要請は医療界も例外ではないというのが医療団体の立場だ。しかし民間の賃金と公の保険料・税を主な財源とする診療報酬を同列に論じるのは筋が違う。本体部分の増額は保険料の引き上げにつながるだけに、慎重であるべきだ。

より重要なのは保険制度そのものの改革だ。2点、提案したい。

第1は、保険が利く処方薬のなかで薬局で手に入る市販薬と効果・効能が同様な薬は保険適用から外すのを原則にすべきだ。胃薬、風邪薬、湿布薬などのたぐいだ。

病の程度にもよるが、症状を自ら判断し薬剤師の助言を得て薬を飲むセルフメディケーションの推進は公的医療費の抑制に資する。

第2は、少額の保険免責制の導入だ。現役世代の患者なら、免責額とそれ以外の医療費総額の30%分を合わせた額が病院・診療所での窓口負担になる。患者、医師の双方に医療費への意識を高める動機づけになるだろう。

診療報酬政策によって医師などの医療行為を誘導するやり方には限界がある。すべての団塊世代が後期高齢者になる25年を見据え、不断の制度改革が欠かせない。

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