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守りと攻めのデジタル化

新風シリコンバレー (小松原威氏)

日本からシリコンバレーに出張してきた人に会うと「一刻も早くデジタル化を進めなくてはならない」とよく聞かされる。しかし、そのためにはデジタル化という言葉を正確に理解する必要があるのではないか。従来の「IT(情報技術)化」とは何が違うのか。

日立製作所を経て2008年にSAPジャパンに入社。15年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに赴任、ドイツとシリコンバレーの2つの視点から日本企業の変革・イノベーションを支援。

デジタル化という言葉は英語では2通りで表現される。「Digitization(デジタイゼーション)」と調査会社のガートナーが提唱した「Digitalization(デジタライゼーション)」だ。似たような響きであっても別の意味を持つ。

前者はアナログなものを「0」と「1」で表すデジタルに変換するという意味で使われる。デジタル時計やデジタル放送、デジタル家電などを思い浮かべるとイメージしやすい。

企業の中でも1990年代後半から盛んに使われたIT化とほぼ同義で使われることも多い。膨大な紙の資料の電子化や、電子メールやアプリなどの社内システム導入を指す。SAPも統合基幹業務システム(ERP)を通じて、世界中のあらゆる取引をIT化して企業の業務効率向上を支援してきた。

後者はデジタルの力でまったく新しいビジネスモデルをつくり、顧客体験も変えることを指す。既存業界を破壊するほどのインパクトを与えるため、今、デジタル化と叫ばれているのはこちらの意味であることを理解する必要がある。企業そのものの姿が変わるため、業務効率向上の延長線上にこの世界はない。

ウーバーテクノロジーズはタクシーを所有していないにもかかわらず、デジタルの力で新しい乗車体験をつくり出し、シリコンバレーからタクシーを消し去った。ネットフリックスの動画配信サービスは見たいときに見たい場所で見たいコンテンツを選べる。それによりビデオレンタル大手のブロックバスターは経営破綻し、日本の放送業界でも地殻変動が起きようとしている。これこそがデジタライゼーションの衝撃だ。

シリコンバレーも、以前はデジタイゼーションの中心地であったが、今はデジタライゼーションの文脈で語られている。ドイツが官民を挙げて実現を目指している「インダストリー4.0」がもくろんでいるのもデジタライゼーションだ。

インダストリー4.0は工場の現場をデジタル化して生産設備を通信網でつなげることにより、効率的な生産を実現することが目的とされている。だが、その先には、各社のビジネスモデルを変革し、買う人が欲しいときに欲しいものだけを注文できるようにするという、新しい顧客体験という理想像がある。

企業がデジタル化を進めるときには、この2つのデジタル化を明確に分けて理解する必要がある。だが、どちらか一方だけを選ぶという話ではない。業務の効率化(デジタイゼーション)という守りのデジタル化がなされていないと、ビジネスモデルの変革(デジタライゼーション)という攻めのデジタル化もたちゆかない。すべてはよりよい顧客体験のために、である。

[日経産業新聞2017年11月28日付]

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