ネット通じて商品開発 デザインは「利用者任せ」
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
このジャケットのこの位置にポケットがついてたら。リュックのここに仕切りが付いていたら完璧なのに。服やカバンなどに対して、ちょっとした改良を願ったことはないだろうか。米国にはそんな「あったらいいな」を実現できるサービスがある。サンフランシスコを拠点とするベータブランドというサービスだ。

ベータブランドは服やバック、靴などのファッションアイテムのクラウドファンディングを運営している。そのプロセスはデザイン未経験者でも参加できるよう工夫されており、「こういう服が着たい」「機能的なアイテムが欲しい」というデザインのアイデアをベータブランドに送ることからスタートできる。デザインスケッチがあればよりわかりやすいが、なくても問題ない。
送られたデザインアイデアに対して、まずはベータブランドのコミュニティーのメンバーが投票する。誰でもメンバーになることができるので、デザイン投稿者は友人や家族などに投票を促せる。最初はあくまでアイデアに対する投票で、クラウドファンディングする商品はまだない。
サイトではアイデアについての簡単なスケッチと投票ボタンが用意されているだけでなく、どの程度の価格帯なら購入するかや、希望の柄、細かなパーツについてのアンケートなどもあわせて行われている。コミュニティーのメンバーに対しては、初期に投票すれば30%オフで商品を購入できるといったインセンティブを用意している。
一定票が集まるとベータブランドが実際にパターンを引いて、見本となる商品を作ってくれる。その見本商品を使い、アイテム写真や着用例などを撮影し、今度はクラウドファンディングが行われる。30日間で目標額を達成できたら、実際に商品化される。目標額はアイテムによって異なる。
キックスターターやインディゴーゴーなどの一般的なクラウドファンディングとは異なり、商品はベータブランドのアイテムとしてリリースされる。製造も販売もベータブランドが請け負う。
デザインの投稿者は年間売り上げの10%を受け取ることができる。投稿者は全くリスクなしに自分のアイデアを試すことができるだけでなく、商品製作のプロセスにも関わることができ、商品をより自分の理想に近づけることができるのだ。

このプロセスを経て、実際に商品化しているアイテムは、トレンドではなく機能性を追求したアイテムが多く、非常にユニークだ。4通りの着方ができるリバーシブルのワンピース、雨の日にもはけるウォータープルーフのウェッジソールシューズ、はき心地がよいヨガウエア素材のパンツやジャケット、旅行に便利なポケットがついたスカーフ、薄型でアウターの中で背負えるリュックサック…。一言では説明できないが、ベータブランドのサイトには機能的なアイテムがならぶ。
見方を変えるとユーザーにデザインを任せているファッションブランドともいえる。投稿しているデザイナーは常連も多いが、ロンドンに住む金融機関で働く女性や、サンクトペテルブルグに住むデザイナー、ロサンゼルスに住む2歳児の母など多様だ。インターネットによって国境を超えたコミュニケーションが可能になり、類似の趣味をもった人々のコミュニティーの形成が容易になったから実現できるおもしろいモデルである。
筆者は自分でデザインを投稿したことはまだないが、投票者として参加したことがある。ダウンジャケットにもなるブランケットに投票し、実際に商品化された。そして先日商品が届いた。自分がデザインしたわけではないが、共感したアイデアが商品になると嬉しい。いずれはデザインを投稿する側になってみたいと思っている。
[日経MJ2017年11月17日付]