2018年7月18日(水)

起業家精神を失った若者
SmartTimes (久米信行氏)

コラム(ビジネス)
2017/11/13 6:30
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 日本に起業家はいなくなるのではないか。明治大学商学部の講師として起業家養成の講座を持つようになって10年以上たつが、危機感は高まるばかりだ。

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目会長。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学経営情報学部「SNS論」客員教授

1963年東京都墨田区生まれ。国産Tシャツメーカー久米繊維工業の三代目会長。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師、多摩大学経営情報学部「SNS論」客員教授

 ICT(情報通信技術)の高度化、少子高齢化や地球環境問題、観光立国と地方創生――。起業のテーマは今や百花繚乱(りょうらん)である。起業家を支援する制度も充実している。

 2006年に明大から講師を拝命したとき、私は自分が体得したネット活用などの技術を伝授すれば起業家を増やせると楽観していた。しかし、圧倒的多数の学生は公務員や大企業の社員になることを目指している。なぜ若者たちは起業家精神を失ってしまったのだろうか。

 1960年代から70年代にかけて私が育った東京の下町では、右も左も町工場や商店を兼ねた住宅で、友達の多くは社長の子どもだった。Tシャツメーカーの私の家には、玄関に反物や製品が積まれ、社長である父と住み込みの社員が仕事をしていた。

 父がトラックで納品を行い、同行する私はそれがドライブだと思っていた。私も友達も働く父親の背中を見て育った。父と会社が成長する過程を見ながら「いつか自分も社長になる」と刷り込まれた。父の会社でアルバイトをして、運転免許を取るとトラックで工場と本社の間を往復した。書棚にある松下幸之助の本を読み、経営者の伝記や経営の指南書を買いあさった。

 大学では、中国経済を学んだ。卒業後はIT(情報技術)分野のスタートアップに就職、飛び込み営業から商品開発まで体験した。株式投資ゲームのヒットを契機に証券会社に転職し、人工知能(AI)を使った資産運用相談のシステム開発と普及に取り組んだ。

 バブル崩壊後に国産Tシャツメーカーの三代目経営者となった。時まさに「デフレ・円高・海外生産シフト」という三つ子の台風が吹き荒れていた。過大な不動産投資で年商を超える規模の負債を抱えてもいた。中小製造業への貸し渋りも始まろうとしていた。

 活路を見いだすため、インターネット黎明(れいめい)期の1996年にTシャツのネット通販を始めた。メールマガジンやブログなど、お金をかけずに宣伝できることは何でもした。

 半生を振り返ると、今の若者とは2つの違いがあることに気づく。1つは身近な場所に経営者や起業家が存在したことだ。今の若者の親の多くは会社員で、かつての私のように「いつかは社長になる」と刷り込まれる場面は少ない。

 もう1つが置かれた環境だ。バブル崩壊という逆境を乗りこえるため、試行錯誤を繰り返した。そのなかで得たノウハウは今の経営に役立っている。逆境に解決のヒントがあるのだ。恵まれた環境にいる今の若者は、創意工夫を求められる機会が減っていると思う。

[日経産業新聞2017年11月10日付]

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