ICOで調達 楽観できず - 日本経済新聞
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ICOで調達 楽観できず

新風シリコンバレー (ジョアナ・ドレイク氏)

仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)が話題になっている。ICOとは、購入者が円などの法定貨幣、または既存の暗号通貨(ビットコインやイーサリアム)を、企業のブランドのついた暗号通貨のコインや「トークン」と交換することを指す。

トークンは発行企業が提供する将来の製品やサービスとの交換に用いられる。新しいドローンを開発しようとしている企業があるとする。この企業がトークンを発行し、このトークンを引き受けた投資家にドローンを優先的に与えるといったことが考えられる。

ICOは、企業がトークンの保持者に対して債務の支払いを約束したり、経営への関与を認めたりするといったような、伝統的な資金調達手段の代替として用いることもできる。

今夏、米国の証券取引委員会(SEC)はあるドイツの組織が行ったICOに関する裁定を公表した。裁定の内容は「ICOは適用方法に応じてSECの規制に従わなければならない」というものだった。経営への関与(議決権や事業・資産の所有)や将来の支払いの約束を示すトークンは金融証券であり、関連する法律の下にあるというのだ。

ICOは中国や韓国では禁止されている。米国では、販売されるトークンが金融証券と見なされない限り、ICOは可能であり続けるだろう。例えば、あるスタートアップがICOで得た資金を新製品の開発に充て、トークンの保持者に完成時に新製品を受け取る権利を約束するといったICOは、証券取引法によって規制されることは近い将来ないと思われる。半面、株式や手形のような性格を持つトークンは規制の対象になると考えればよい。

私たちは、製品の開発資金を調達するためのICOは、新規事業、特に消費者向けの新規事業に対してポジティブな影響を与えそうだと考えている。不特定多数の人から小口資金を集めるクラウドファンディングより効率的かもしれない。

消費者は、製品の開発や価値向上に貢献できるようなトークンを買うことに、積極的に参加する可能性がある。半面、法人を対象としたビジネスでは、ビジネスの内容に対する顧客企業の評価と購入プロセスが守秘されることが多く、ICOは用いられそうにない。

スタートアップの資金調達手段としてのICOについて、私たちは楽観していない。ICOはトークンの引き受け手の匿名性が高く、誰に支援されたのかがわかりにくい。麻薬密売人が役員になってしまうようなこともあり得る。

スタートアップへの投資は誰もができるわけではない。彼らが進出しようとしている市場についての知見や調査能力、経営に関する知識が、投資する側に求められる。初期段階のスタートアップには、助言や人材採用、人脈の提供といった金融以外の資源が重要だ。

私たちは仮想通貨の発展の初期段階にいる。今後、仮想通貨をめぐり、幸運な勝者とだまされる者が出てくるだろう。

[日経産業新聞2017年11月7日付]

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