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春秋

「太田ラッパ」という言葉を、昭和時代にはしばしば耳にした。労働運動華やかなりしころだ。総評議長などを務めた太田薫さんが賃上げや合理化反対をダミ声で訴える様子を、こう呼んだのである。度の強い眼鏡と、ずんぐりした風体がいかにも庶民派の闘士だった。

▼時は流れ、いまでは総理大臣がラッパを吹き鳴らす時世となったらしい。安倍首相は先日の経済財政諮問会議で「3%の賃上げ実現を期待する」と具体的な数字を挙げて企業側に賃金アップを求めた。「賃上げは企業への社会的要請だ」。これまで以上に強硬に給料を増やせと迫る姿は、さながら安倍ラッパというべきか。

▼企業の懐具合はずいぶん改善している。景気拡大局面は「いざなぎ超え」が確実だ。日経平均株価も16連騰を記録した。なのに、なのに、賃金が上がらないから景気の好循環が生まれない――とアベノミクス成功を念じる首相としては憤まんやるかたないのだろう。赤い鉢巻きなど締めて団交に臨みたい心境かもしれない。

▼気持ちはわかるが、お上が一律の数値目標を掲げて立ち入るのはやはり筋が違う。ここはまず労使でと言いたいが、組合からのラッパはほとんど聞こえない。首相の賃上げ要請は5年連続。太田さんは「ハッスルせよ」が口癖だったそうだが、政府がお株を奪い、昭和風にハッスルする光景の不思議さをなんと形容しよう。

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