2019年7月21日(日)

研究機関に眠る技術×ベンチャーで社会問題解決
校條 浩(米ネットサービス・ベンチャーズ マネージングパートナー)

2017/11/3 6:30
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サンフランシスコの近郊に、世界的なワインの産地であるナパとソノマがある。そのナパ・ソノマ地域が山火事で大変なことになった。被害は甚大で、消失面積は東京23区の広さに相当する。被害総額は7兆円を超えるという。

7兆円と言えば、米国のベンチャーキャピタルの年間投資額に匹敵する。この技術革新の時代になすすべもない、とは何とも情けない。専門家によれば初期消火が最も重要だという。山火事を防ぐスタートアップはないものか。

森にたくさんのセンサーを設置して監視すれば山火事をすぐに発見できそうだ。ある起業家は「確かに最近のIoT(すべてのモノをネットにつなげる技術)のシステムを使えば理論的には可能かもしれないが、土地が広すぎてコスト倒れになってしまう」と話していた。対象とするデータも気象情報や木の乾燥度、火の気の有無など幅広く、分析・推測するのは難しい。

どうもスタートアップ1社だけでは手に負えない問題のようだ。行政や大手企業を巻き込むことによって総合的に解決できないだろうか。

そこで思い出したのが私の知り合いのスティーブ・ブランク氏だ。彼は8社のスタートアップにかかわり、そのうちの4社で株式を上場させた優れた起業家だ。彼は新規事業創造の方法論である「リーンローンチパッド」を考案、その教育を始めた。彼の弟子の1人であるエリック・リース氏の著作がベストセラーとなり、「リーンスタートアップ」が広く知られるようになった。

リーンローンチパッドとは、最低限のコストで製品・サービスを顧客に提供し、そのフィードバックをもとに製品・サービスを改善するプロセスを指す。このサイクルを繰り返して市場に受け入れられる製品・サービスを目指す。

そのブランク氏が政府機関に対して教育を始めた。例えば、防衛や外交のスタッフに、リーンローンチパッドの方法論を使って、問題解決を探る指導をしている。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。

私が注目しているのは、彼が教育プログラムを提供しているNational Science Foundation(国立科学財団)との共同プロジェクトだ。研究機関に埋もれている技術をこの手法によって実用化するためのプラットフォームとそのプロセスの教育を行っている。NIH(国立衛生研究所)やDOE(エネルギー省)、HHS(保健福祉省)、NSA(国家安全保障局)などの米国の組織がこのプロジェクトに参加している。

ブランク氏はリーンローンチパッドという手法を教えるだけでなく、それを実行するための人材育成もしている。先にあげた省庁に加え、全米の53の大学でも彼の教育プログラムが提供されている。

国の研究機関には、すごい技術がたくさんある。テロの攻撃に強いネットワークシステムとして開発されたインターネットは世界の通信インフラとなり、軍事目的の衛星による全地球測位システム(GPS)が民間に開放された。秘匿性の高い無線LANは軍事用として研究されたが、現在はWi-Fiとして普及している。

研究機関に眠る技術が発掘されて、スタートアップが実用化に向けて使うようになれば、イノベーションはさらに加速するはずだ。冒頭にあげた山火事防止のような大きな社会問題に対しては、公的な研究機関とスタートアップが協業することにより解決の道を開くだろう。

[日経産業新聞2017年10月31日付]

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