ソフトとの肌感覚の付き合い、デジタル変革の第一歩
大阪大学教授 栄藤稔

2017/10/31 6:30
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10月12日、ファーストリテイリングの決算発表で柳井正会長兼社長は「ファーストリテイリングは今までは商品を企画・製造・販売する企業でした。今後は情報を商品化して新しい業態に変わる。情報製造小売業になる」と述べた。私はこの言葉から、ファーストリテイリングが企画・生産・物流・販売を一気通貫に変革しようとする意気込みを感じた。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

私はデジタル変革すると言い切った柳井氏に注目している。というのも「デジタル変革」こそがすべての日本企業が取り組むべき挑戦課題だと主張してきたからだ。

それは業務の電子化や紙をコンピューターに置き換えるという意味ではない。デジタル変革とは「世界はソフトウエアでできている」と信じ、IT(情報技術)により自社の業務を最適化するだけでなく、新しい事業形態に転換することだ。特に後者は、モノ売りからサービス売りへの転換や単一事業から複合的なプラットフォーム事業への転換が主となる。例を示そう。

個人に自家用車を売るのが自動車販売会社のモノ売り事業だ。現在、都市部ではクルマを所有するよりも、必要なときにだけ利用する方が安い。それがサービス売りのタクシーだ。これまでタクシーが担ってきたサービスを破壊的な安価で即座に利用できるようにした企業が米国サンフランシスコで出現した。ウーバーテクノロジーズだ。

運転手と乗客をスマートフォン(スマホ)で結びつけて効率の良い配車サービスを提供する。その利便性が新車販売台数とタクシーの減少という流れを生み出した。さらにウーバーは客を運ぶだけでなく、貨物の輸送・宅配という流通プラットフォーム事業も展開しようとしている。

この例でみられるように、デジタル変革は事業効率化と事業転換という2段階の側面を持つ。

ITに通じた人材が社内にいない企業からこのような声を聞く。「どうしたらデジタル変革ができるのか」。この問いへの答えは「まずは肌感覚でソフトウエアとの正しい付き合い方を知ることだ」になる。それは世界のIT企業が共有する価値観でもある。

モノは買った瞬間から価値が下がっていく。一方、ITサービスの代表であるソフトウエアはどうだろうか。ソフトウエアは日々更新される。ソフトウエアは進化する生き物なのだ。

欠陥(バグ)があったとしても、多くの人は我慢して使う。使い勝手が時間がたつにつれて良くなり、明日は今日とは違う価値を提供してくれると期待できるからだ。

自社製品の開発は内製にこだわり、他社のソフトウエアやサービスを進化する製品として統合する。その価値観を理解できたら、次の一歩はどちらかだろう。

「事業の効率化を信頼できるIT企業に共同事業として丸投げする」

「ITを自社の競争原資と考え、内外の人材を集める。まずは少人数でもよいから社内チームをつくり、デジタル変革に成長すると思われるシステムをクラウドを利用してつくり始める」

前者の丸投げもありだが、後者を選びたい。この10年間でIT分野の技術とソフトウエアが一般商材になった。一部の大企業でしか持てなかったセキュリティー、通信、データベース、データ解析が進化する部品としてそろっている。小規模なチームでも、旧来のIT分野の大企業と勝負できるシステムが安価につくれるようになった。

クラウドはITに市民革命を起こしたのだ。一部の特権階層の技術者集団にしかできないシステムづくりが、今では市井の技術者にできるようになった。この市民革命はこれまでの常識を変え、世界を変えていくことになる。ファーストリテイリングの柳井氏はその意味を理解している。

[日経産業新聞2017年10月26日付]

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