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忍び寄る「動かぬリスク」 日銀の孤独(下)

「木内さんの案に似てきたな」。今の金融政策について、日銀内でこんな声が増えている。前審議委員の木内登英氏は異次元緩和の副作用を懸念し、年約80兆円の国債買い入れペースを約45兆円に減らす独自案を金融政策決定会合で提案していた。案は否決され続けたが、足元で日銀の国債買い入れは50兆~60兆円の規模まで縮小している。

「こっそり」縮小

ステルス・テーパリング(こっそり行う資産購入額の漸減)。2016年9月に金融緩和の主軸を量から金利に移す長短金利操作を導入して以降、日銀の資産拡張ペースが鈍っていく姿を市場関係者はこう呼んでいる。

日銀幹部は「狙ってやっているわけではない」と話す。世界的に金利が下がり、結果的に国債をたくさん買わなくてもすんだだけという。だが日銀は16年9月の時点で、国債購入ペースが数十兆円規模で鈍ることも想定していた。

短期決戦を狙った異次元緩和は不発に終わった。金融緩和を続けつつも、資産の拡大を緩めるのは自然な流れだ。急な政策変更は金融引き締めと受け止められかねず、円高のリスクとなる。そこで日銀は「年80兆円のメド」という方針を残しつつ、こっそり軌道修正をしている。

緩和策を微修正しつつ、日銀の黒田東彦総裁は半年後に任期を終える。市場関係者が見るこれからのシナリオは3つある。

1つ目はテーパリングを続け、軟着陸を目指すというものだ。金利を0%程度に誘導する対象を5年債などに移し、長期金利の上昇を容認する案などがとりざたされる。ただ「日銀が2%の物価安定目標をあきらめて緩和縮小に向かった」と海外投資家などが受け止めると、円高は避けられない。

2つ目は逆に、追加緩和だ。片岡剛士審議委員が主張しており、10月にも独自提案を出す可能性がある。追加緩和が物価上昇につながれば、その後は金融緩和を縮小して正常化に向かえる。だが金融機関への影響や、緩和縮小への「出口戦略」の難しさが増すことを考えると、日銀幹部は「これ以上の緩和は理解が得られにくい」と見る。

有力な第3の案

いずれも副作用がある2案を有力と見る市場関係者は少ない。最も有力とされるのは第3の案。「動かない」だ。

「日銀にはこのまま何もせず、円安・株高を支えてもらいたい」。日銀幹部は企業関係者からよくこんな話をされるという。しかし日銀が動けないままだと、米欧が次の景気後退期に金融緩和をすると、為替が円高に振れる。動かないことにもリスクはある。

「短期的な痛みなら我慢する。日銀を孤立させてはならない」。マイナス金利を導入した直後、メガバンクの首脳はこう語った。怖いのは政府や企業に脱デフレに向けた一体感がなくなり、緩和が際限なく長びいてしまう事態だ。日銀の孤独。この不安はいま現実のものとなりつつある。

 後藤達也、高見浩輔が担当しました。

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