2017年12月11日(月)

春秋

2017/10/6 1:18
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 ノーベル文学賞に輝いたカズオ・イシグロさんは、両親とも日本人なのだが、5歳で英国に渡り、日本語はほとんど話せない。初期の2作で描いた日本については「想像上の産物」と語っている。英語を母語としつつも、当初はルーツへの憧憬が勝っていたのだろうか。

▼出世作であり映画化もされた「日の名残り」では、第2次世界大戦前に貴族の名家に仕えた執事の目を通し、大英帝国の落日を描いた。こちらは英国の現代史への造詣が深く、かつ富裕層の文化や行動様式に通じていなければ描けるものではない。英国内ではマイノリティーと位置づけられるイシグロさんの偉業であろう。

▼授賞は世界に吹き荒れる「排外主義」への静かな反論ともとれる。遠い国に生を受けた人間が、伝統的な英文学の知識を身に付け、質の高い作品を発表する。グローバル化する世界で異なる文化や言語と交わることで、より新鮮で感性にあふれた作品世界を築くことができるのである。イシグロさんの足跡が証してみせた。

▼日本でも芥川賞を受けた中国人の楊逸(ヤンイー)さんや米国人のリービ英雄さんら、日本の出身ではない作家の多彩な活躍が目立つ。ドイツに居をかまえ、独語で執筆する多和田葉子さんもいる。「寛容」が生む豊かな交流は芸術に確かな成果を生み出すことは歴史に明らかだろう。今回の文学賞がその後押しとなることを祈りたい。

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