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シリコンバレーの独企業に学ぶ 革新生む型づくり
小松原 威(独SAPグローバルイノベーションオフィス プリンシパル)

2017/10/3付
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 日本企業の「シリコンバレー熱」は冷めず、日本からの視察団が引きも切らず訪れる。しかし残念ながら「面白いけれども、文化が違いすぎる」との感想で終わることも多いようだ。

日立製作所を経て2008年にSAPジャパンに入社。15年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに赴任、ドイツとシリコンバレーの2つの視点から日本企業の変革・イノベーションを支援。

日立製作所を経て2008年にSAPジャパンに入社。15年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに赴任、ドイツとシリコンバレーの2つの視点から日本企業の変革・イノベーションを支援。

 なぜなら多くの日本企業にとっての挑戦は、シリコンバレーがリードする破壊的イノベーションによる新規事業創出だけでなく、何十年も培ってきた重く硬直的な既存事業の変革にあるからだ。その両方を解決するヒントは、若いシリコンバレー企業には落ちていない。

 そうした意味で、ドイツの老舗IT(情報技術)企業であるSAPの変革は参考になるとよく言われる。シリコンバレーだけでも4千人の従業員を持つSAPは、シリコンバレー最大の外資系企業というユニークな存在だからだ。

 ドイツと日本の共通点は多い。高齢化が進み、労働組合が強く、社会保険負担による高い人件費の制約がある。ドイツの産業も日本と同じように製造業中心であり、生真面目で失敗を嫌う完璧主義者が多い。日本とドイツはこうした制約の中で「重い既存事業をどう変革していくのか」という同じ課題を持つ。

 SAPは統合基幹業務システム(ERP)と呼ばれる企業向けソフトウエアのビジネスを続けてきた。新規事業が育たず、停滞した時期があったが、2004年にデザイン思考に出会い、事業変革を実施していく。デザイン思考とは、顧客を観察し、そこから生まれる顧客への「共感」をもとに複数のプロトタイプをつくりながら、顧客と共同で価値を生み出す方法だ。

 ドイツから離れたシリコンバレーを新規事業の総本山とし、デザイン思考という方法論を使い、ERP以外の新規事業の売上比率が60%を超えた。人材の多様性を重視しており、シリコンバレーの拠点には40カ国から人材が集まっている。グローバル最高執行責任者(COO)に35歳の人材を選ぶなど、00年以降に成人した「ミレニアル世代」の抜てきにも積極的だ。

 そんなドイツと日本の違いは、フレームワーク作りの巧拙ではないかと考える。属人的だと思われる優れた思考や行動を汎用化し、誰もが再現できるようにする「型」づくりだ。

 ドイツは異なる人種や宗教と隣り合っている。それ故に、違いを乗り越える共通のフレームワークづくりを主導してきた。政治のフレームワークとしてEU(欧州連合)を、すべてのモノがネットにつながるIoT時代の標準化を進めるフレームワークとして「インダストリー4.0」を生み出した。世界中の仕事のやり方をフレームワークにしたものがERPであり、SAPはそれをなりわいとしてきた。そのSAPがイノベーションを起こすためのフレームワークとして取り入れたのがデザイン思考だ。

 日本人は同質性の高い社会の中で生きているので、あうんの呼吸で意思疎通が可能だ。しかし、伝統的な企業が事業変革をするには、イノベーションを生み出すためのフレームワークを身につける必要がある。ドイツ企業にとってもシリコンバレーでビジネスをすることは大きなチャレンジ(困難)だ。だからこそ日本企業は、愚直に「型」をつくるドイツ企業の取り組みに目を向けてほしい。既存事業と新規事業というまったく違った文化の両立は難しいが、テーゼとアンチテーゼという二律背反したものから答えを昇華させてきた国こそドイツなのだ。

 まず「型」を守って、破って、そして離れる――。守破離こそ、日本が得意とする創造的プロセスのはずだ。

[日経産業新聞2017年10月3日付]


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