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スノーピークが好例 愛着度示す「エンゲージメント」

アジャイルメディア・ネットワーク取締役 徳力基彦

デジタルマーケティングやソーシャルメディアを活用したマーケティングの現場で最近よく使われるのが「エンゲージメント」という言葉だ。ツイッターやフェイスブックの投稿に対する反応率を「エンゲージメント率」と呼ぶことも多い。ただ英単語の辞書では「契約」「婚約」「誓約」などとあり、直訳すると日本語としてはしっくりこない印象もある。

スノーピークは経営危機から顧客との関係を見直した(アンバサダープログラムアワードから)

そんなもやもやもあるなかで、先日筆者が企画している「アンバサダープログラムアワード」の受賞企業のプレゼンで、マーケティングの現場においては最も近い日本語は「愛着度」なのではないかと感じた。

象徴的だったのは、受賞企業の一社でアウトドア用品などを販売するスノーピークの西村康司氏のプレゼンだ。西村氏が所属する部署はその名もずばり「ブランドエンゲージメント部」という。

西村氏は「スノーピークウェイ」という、同社スタッフと顧客が一緒にキャンプをし、たき火を囲んで語りあうイベントに力を注いでいる。何でも20年ほど前にキャンプブームが下火になって同社の経営が苦境に陥った際に、もう一度顧客の声を聞いてみようという社員の発言から始まった取り組みだそうだ。それから毎年、日本中で開催し続けているそうだ。

一度のイベントに参加する顧客は数十組。同時に数百万人や数千万人に露出することが可能な「リーチ」を重視したテレビやネットの広告手法に比べると、随分と非効率で手間がかかるように感じる人も多いだろう。

ただ、スノーピークウェイで顧客の声に真剣に耳を傾けたことをきっかけに、スノーピークは自分たちの使命を「ユーザーの笑顔をつくること」と再定義した。今日の躍進につなげることができたのだそうだ。

西村氏のプレゼンで特に印象深かったのは、顧客からの愛着度を高めることに同社が本気だという点だ。一過性のブームで一時的に製品を買った人ではなく、本当のキャンプ好きにスノーピークを選んでもらうことの重要性が浸透している。

当日の受賞企業のプレゼンではほかに、ヤッホーブルーイングやマクドナルドも「エンゲージメント」という言葉を強調していた。ヤッホーブルーイングもクラフトビールブーム後の経営危機を乗り越えた企業だ。「よなよなエール」の年間契約など、エンゲージメントの高いファンを増やす活動に取り組んでいる。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

くしくもマクドナルドも異物混入などの危機を乗り越えてV字回復を成し遂げている。このほど実施した「第1回マクドナルド総選挙」は「レギュラー商品でエンゲージメントを強化できないか」という問題意識から生まれた企画だった。

こうした取り組みは一見、ネットを使った昨今の効率的な販促手法とは逆行していると感じる人もいるかもしれない。しかし、今回の受賞企業の多くが口にしていたのが、ネットのおかげで顧客とのリアルの接点をつくりやすくなったということだ。エンゲージメントを重視したイベントや企画を実施しやすくなったという。

フェイスブックのエンゲージメント率のように、投稿に対する単純な「いいね」の数で測定するのは簡単だ。ただ、本来企業が重視しなければいけないのは、その裏にある顧客の企業に対する愛着度の変化のはずだ。

そういう意味で、エンゲージメントという言葉を関係性や反応率と理解してしまうと、重視すべきことを間違う可能性が高い。エンゲージメントを重視する活動とは、仮に自社が経営危機に陥っても、逃げずに向かい合ってくれる愛着度の高い顧客を増やすための活動である。そんなふうにイメージしてみてはいかがだろうか。

[日経MJ2017年9月29日付]

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