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ビジネス知る「スレた技術屋」イノベーターの育成を
大阪大学教授 栄藤 稔

2017/9/7付
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 私の経験では、社会で必要とされる技術者は職人、研究者、イノベーターの3つに分類される。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。
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1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

 経営者は技術部門に2つのことを期待する。ひとつは事業部門の求めに応じて技術を提供する受託開発である。これに対応するのが職人型技術屋、職人だ。現場から信頼され、自分の腕で問題解決と製品開発を行って事業貢献を実感する。

 もうひとつの期待は、技術で新規事業を起こすことである。ピカピカの新規技術の開発が前提とされるので、必要な人材は研究者となる。彼らは世界のトップを走る自分の先端技術が事業につながることを夢見る。

 経営層は職人には「君らは技術を磨きなさい、君らの仕事は、事業を見ている僕たちが与える」と言う。研究者には「新規事業のネタになり得るトップレベルの技術を提案してね。それが優れていれば採用して僕らが事業にする」と語る。

 ここに落とし穴がある。それに気づいている企業人は以下の文章を読む必要はない。そうでない人は産学の人材育成を考え直す必要がある。

 オープンイノベーションに関する著書で知られるヘンリー・チェスブロウ氏。米カリフォルニア大学バークレー校の客員教授である彼は「イノベーションは発明とビジネスモデルの探索から成り立つ」と述べている。

 発明は新技術にすぎない。それがどのように新規事業を構成するのかというシナリオの設計と相まってからイノベーションが起きる。

 技術開発には様々な分野がある。新素材や再生医療など先端科学技術分野では、発明そのものが多くのビジネスモデルをけん引する。ここでは研究者の果たす役割は大きい。iPS細胞の発明はその好例だろう。

 一方、情報通信分野では、想定した新規事業に向けて最良の技術を組みあわせる設計が大事になる。初期段階からビジネスモデル設計と技術開発を同時に行うことが重要となる。それができる人は技術者の枠を超えている。いわば世の中を知り尽くした「スレた技術屋」だ。ここではカッコよく「イノベーター」と呼ぶことにする。

 先端科学技術分野でもビジネスモデルが不要ということではない。ある素材メーカーの技術幹部は私にこう言った。「新素材開発の事業化を成功させる確率を上げる方法として、研究者に研究着手時に事業化シナリオを書かせています」

 そうなのだ。着手段階のビジネスモデル検討がどの分野でも重要だ。研究者が経営視点を持って、スレた技術屋にもなるのが理想型だ。そうではなく、研究者に技術だけに専念させると、彼らは「無垢(むく)な研究者」となってしまいかねない。

 様々な研究開発提案書を評価する立場にいると、無垢な研究者の課題提案とイノベーターの課題提案との違いを感じる。

 前者には、参加メンバーのやりたい技術が網羅的に書いてある。後者には成し遂げたい社会へのインパクトとそれへの情熱が盛り込まれている。前者には、リスクを考慮した跡がない。後者には直面するであろうリスクが記載され、それへの対応策も書かれている。前者の問題設定は曖昧か壮大であり、後者の問題設定はコンパクトで汎用性も併せ持つ。

 職人と研究者に加え、イノベーターの育成が重要だ。それにもかかわらず、企業には属人的な教育しかなく、大学はトップ研究者育成志向から抜けきれない。世の中の研究開発の生産性を上げたいなら、技術だけでなくビジネスを同時に教えるべきだ。

 最新の技術開発とビジネスモデル設計が同時並行して進む破壊力を想像してほしい。技術屋を「技術」に押し込んではダメなのである。技術と事業の間に線を引いてはならない。

[日経産業新聞2017年9月7日付]


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