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論理と感情だけじゃない 意思決定、直観も生かそう
グロービス経営大学院学長 堀義人氏(79)

2017/9/1付
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 「ベンチャー投資を成功させる秘訣は何ですか」。20年ほど前、伝説のベンチャーキャピタリストであるアラン・パトリコフ氏にこう質問したことがある。まだ経験が浅かった僕は、先輩キャピタリストから多くのことを吸収したかったのだ。

 「直観だよ」。返ってきたのはこの一言。納得できず「直観とは何ですか」と畳みかけたが、彼から明確な答えは引き出せなかった。

 このため、直観とは何かを考える必要があった。第六感、蓄積した経験からにじみ出る何か、「セレンディピティ」と言われる偶然わき上がる発想、ある種の腑(ふ)に落ちる感覚――。ぴったりくる説明は見当たらなかったので、直観を「論理と感情以外のすべて」と定義した。

 僕個人はどうやって意思決定しているだろうか。考えてみると、3つの要素に基づいて意思決定しているといえる。(1)ビジネススクールで教えるような「論理」(2)楽しい・前向きなどの「感情」(3)何となくという「直観」――だ。

 論理が、意思決定の妥当性を最も高めると思われがちだが、頼りすぎると問題がある。結論を導くのに使うデータが不正確だったり前提条件が変わったりすると、とんでもない間違いにつながる可能性があるからだ。

 感情も重要な要素だ。だが、人間はしばしば感情に流されがちになる点に注意が必要だ。「かわいそうだから助けてあげよう」などと同情心だけで資金を出すと、失敗するものだ。

 もちろん直観にも欠点がある。言語化できないゆえ、リーダーがそれに過度に頼りすぎると説明が不足し、周囲の社員が振り回されるからだ。あくまで論理と感情に直観を組み合わせることで、よい意思決定につながると思う。

 20年も前のこと、僕がベンチャーキャピタル(VC)を創業した当初に出会ったのがワークスアプリケーションズだ。3人の共同創業者のうちの1人、牧野正幸さんとネットで知り合い、事業計画書が送られてきた。

 ワークス社は、日本ではまったく成功したことがない企業向けの統合基幹業務システム(ERP)をつくるビジネスを手掛けていた。社員はわずか8人、顧客は5社だった。聞けば100社近くのVCから投資を断られたという。そんな会社にグロービスは合計で8900万円、1号ファンドの約2割の資金を投じることを決めた。

堀義人(ほり・よしと)1986年京大工卒、住友商事入社。米ハーバード大経営大学院で経営学修士号(MBA)取得後、92年にグロービス設立。「ヒト・カネ・チエの生態系を作り社会の創造と変革を行う」ことを目標に、経営大学院の経営、ベンチャーキャピタルの運営、経営ノウハウの出版・発信を手掛ける。茨城県出身。55歳。

堀義人(ほり・よしと)1986年京大工卒、住友商事入社。米ハーバード大経営大学院で経営学修士号(MBA)取得後、92年にグロービス設立。「ヒト・カネ・チエの生態系を作り社会の創造と変革を行う」ことを目標に、経営大学院の経営、ベンチャーキャピタルの運営、経営ノウハウの出版・発信を手掛ける。茨城県出身。55歳。

 リスクが高いと思われた創業直後のベンチャー企業に、なぜ投資したのか。それは、僕の頭の中で何か「クリック」されるものがあったからだ。その何かが、直観というものなのかもしれない。共同創業者の3人からは「日本のソフトウエアを変えていく」という強い情熱が感じられた。3人のバランスもとてもよかった。「もしかしてうまくいくのでは」と思って投資した資金はその後、約30倍ものリターンをもたらした。

 直観とは何か。僕は今でもうまく説明できない。ただ、経験によって鍛えられるものだというぼんやりとした認識はある。VC投資の20年間を振り返ると、当初は半分近い案件が失敗した。それが今では失敗率は1割を切るようになってきた。その後、投じたグリーへの資金はリターンが100倍近くになった。メルカリには20億円近く投資をしており、巨額のリターンを得る可能性を秘めている。

 グロービスのVCは2000年代前半のインターネットバブル崩壊、そして08年のリーマン・ショックを乗り越え、今でも多くの投資家から支持され続けている。それは論理と感情だけでなく、直観をも組み合わせた投資意思決定手法が功を奏しているのではないかと感じている。

 だが、その重要な要素である直観のことは、いまだにうまく説明できないでいる。後輩キャピタリストに質問されても、以前のアラン・パトリコフ氏と同様に、僕も黙ってやり過ごすことになるであろう。

[日経産業新聞2017年9月1日付]


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