2017年11月23日(木)

名古屋議定書、国内でも効力 生物多様性保全へ一歩
日本総合研究所理事 足達英一郎

コラム(ビジネス)
2017/9/4 6:30
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 8月20日、わが国でもようやく効力が生じることとなった「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」は、2010年10月18~29日に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された。

 およそ3千万種の生物が地球上には生息し、人類は、これを食糧、医療、科学の領域で広く利用してきた。しかし、人間の活動によって生物の多様性が著しく減少していることが懸念される段階に至っている。

 そこで、ある生態系における種の多様性のみならず、遺伝子の多様性と、生態系(森林、河川、サンゴ礁など様々な自然環境)の多様性を含めて、締結国に生物多様性の保全および持続可能な利用のための一般的な措置を求めたのが生物多様性条約である。

 この条約が画期的だったのは、環境条約であるにもかかわらず「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分をこの条約の関係規定に従って実現することを目的とする」と経済的側面を前面にうたった点にある。

 環境には価値があり、その移転には利用側から提供側に利益の配分があってしかるべきだという見方は、昨今の「自然資本」の概念を先取りするもので、経済の外部性から生じる環境問題の本質を突いていた。

 条約にうたう「利益の公正かつ衡平な配分」のために、遺伝資源の提供国および利用国がとる措置等について定めたのが名古屋議定書だ。50カ国以上の批准書や受諾書の寄託をもって、その90日経過後に発効するとされ、実際には2014年10月12日に名古屋議定書は発効した。

 ではなぜ、わが国は、今年になるまで、受諾書を国連事務総長に寄託することができなかったのであろうか。それは、国内措置である遺伝資源の取得の機会、およびその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針(ABS指針)づくりが難航を極めたからだと総括できよう。

 背景の第一には、「遺伝資源」の定義が広範すぎる点が懸念されたことがある。多くの解説では、途上国にあった遺伝資源を、先進国企業が医薬品や食料品、化粧品などの製品開発に利用し、利益を上げている事例などが紹介されている。しかし、利用国順守措置の対象範囲の外縁は確かに明確ではない。学術界、産業界からは、研究開発活動が停滞してしまうという指摘もなされた。

 第二に、米国がそもそも生物多様性条約すら批准しておらず、名古屋議定書の制約を全く受けないことから、日本の研究開発が米国に対して競争力を失うという懸念も多く聞かれた。付け加えるなら、指針の策定には財務省や文部科学省、厚生労働省など、多くの省庁が関係し、多岐にわたる調整が必要になったのも理由の1つに挙げるべきだろう。

 それでも曲がりなりにも、国内措置としてのABS指針が今年5月にまとまり、8月、名古屋議定書の効力が生じることとなった。ここまでの関係者の尽力には敬意を表したい。

 今回の指針を要約すれば「提供国としての義務を果たしている(関連国内法令などの整備等ができている)締約国からの遺伝資源の取得に際して、環境大臣への遺伝資源およびそれに関連する伝統的知識の適法な取得に係る報告を求める」というもので、行政措置であり、罰則規定はなしとすることで決着した。

 遺伝資源についても遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材であって現実の、または潜在的な価値を有するものを指すと整理された。

 環境大臣に報告された情報は、今後、国際機関への提供や、環境省ウェブサイトへの掲載がなされることになる。ここで開示される先取の姿勢を示す企業の事例を是非、注目していきたい。

[日経産業新聞2017年8月31日付]

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