2017年11月20日(月)

100年前の名演説が聴ける 電子アーカイブが隆盛
瀧口 範子(フリーランス・ジャーナリスト)

コラム(ビジネス)
2017/8/31 6:30
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 最近ウェブサイトを閲覧していると、面白いデジタル・アーカイブに行きあたって、すっかり熱中してしまうことがある。博物館や美術館がデジタル・アーカイブを設けているのは知られているが、今や多様な組織がアーカイブをネット上で公開していて、いながらにしていろいろな知識が得られるのだ。

IBMでは、1915年の伝説の演説が聴ける

IBMでは、1915年の伝説の演説が聴ける

 外国人にとって興味深いのは、米国企業、それも歴史ある企業のアーカイブだろう。IBM、コカ・コーラ、フォード・モーターなどはかなり充実したアーカイブをネット上で公開している。

 各社のサイトでは、詳細の社史が時間軸に沿ってアクセスできるようになっていたり、その時々のエポックメーキングな出来事が編集されていたりする。IBMのアーカイブでは、1915年にトーマス・J・ワトソンが「Think(考えろ)」と呼びかけた演説の録音まで聞ける。

 「われわれは、読み、聞き、議論し、観察し、そして考えることを通して学ばなければならない。(中略)問題は、われわれが考えなくなってしまうことだ。なぜなら、考えるのは面倒だからだ」。同氏の語りは100年後の今も十分響く。

 また、アーカイブには、当時の製品だけではなく、広告や印刷物なども掲載されていて、ビジュアルに歴史の移り変わりが感じられる。知らなかったこともたくさん載っていて驚く。例えば1960年代に売り出されたダイエット版のコカ・コーラは、女性科学者たちが中心になって開発したとか、IBMはかつて時計を作っていたなどは、アーカイブを見るまで思いもよらなかった。

 どのページにも詳しい説明が加えられている。単に広報活動として公開しているのではなく、歴史の専門家や司書が関わって本格的に整理しているのだろう。

 見ていて楽しいのは、化粧品やファッション・ブランドだ。ジーンズのリーバイスは、実際のアーカイブからテーマを作り出して、物語として構成している。60年前のデニムの見本が出てきたり、同社が1910年代末に女性のための初めてのデニム服を作ったものの売れなかったという話が、当時の広告と一緒に表れたりする。「まさにアメリカだなあ」と感じられる項目ばかりだ。

 訪問販売で知られていた化粧品のエイボンのアーカイブは、企業と技術に関する古い資料を収集するヘイグリーという美術館が運営している。アーカイブには「販売員」に絞ったカテゴリーがあり、時代ごとにトップの売り上げを達成した販売員の写真などが見られる。同社にとって彼女らの存在が重要だったことがわかる。また、1920年代に販売員が持ち歩いていたカラフルな商品カタログが、ページを繰って閲覧できる。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

 企業だけではない。ニューヨーク・フィルハーモニックでは、有名指揮者が書き込みをした楽譜まで見られる。音楽好きにはたまらない内容だろう。もちろん、議会図書館、スミソニアン博物館などのアーカイブの充実ぶりは有名だが、一方、地方の小都市の団体が運営する地元の歴史に関するものも味わい深い。

 ほかにも大学では、各校の専門分野が反映されていて面白い。アメリカらしく、人種に関するアーカイブも多い。アフリカ系アメリカ人の歴史、アジア系アメリカ人の歴史、功を成したユダヤ系女性、日系人の戦時中の収容所での生活を記録したアーカイブもある。

 確かなのは、ここ数年でデジタル・アーカイブはますます本格的になってきたということだ。「インターネット」と聞くと、時にせわしない気分も巻き起こってくるが、腰を落ち着けて味わえるデジタル・アーカイブのようなネット体験もじわりと広がっているのだと覚えておきたい。

[日経MJ2017年8月28日付]

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