盆踊り、あなたはどう踊る? 昭和歌謡やロックも人気
盆踊りが熱く盛り上がっている。流れる曲は炭坑節やご当地音頭が定番だったが、最近は昭和歌謡あり、DJありと夏の風物詩は様変わり。会場をはしごする「盆踊らー」も加わり、今夜も踊りの輪が膨らむ。
夕暮れ迫る、8月14日の名古屋城。恒例の「大盆踊り大会」の会場から軽快なリズムが響いてきた。ちょうちん飾りの櫓(やぐら)を何重にも取り巻く踊りの輪。荻野目洋子さんが歌う懐かしのヒット曲「ダンシング・ヒーロー」がかかると、踊りのテンションが一気に上がった。

30年以上も前の昭和歌謡だが、盆踊りの世界では今も人気のメロディー。昨年末、舞踊の普及団体である日本民踊・新舞踊協会(東京・台東)などの後押しで盆踊り用のCDが新発売されたこともあり、今年の夏は全国でこの曲が響いている。
盆踊り版「ダンシング・ヒーロー」は実は名古屋が発祥の地。曲がヒットしていた1986年、東海地区を中心に約2千人の踊りの師範を束ねる日本民踊研究会(名古屋市)の島田豊年・前会長が振りを付けたのが始まりという。
もともと海外ヒットのカバー曲だったのでまず外国人労働者の多かった岐阜県などに根付いた。名古屋市では一時途絶えたが、人気が周辺地域から逆流し定番になったという。さらに北海道や関東の一部にも飛び火した。
「ダンシング・ヒーロー」に限らず、名古屋から生まれる盆踊りの新曲は多い。どうしてなのか。研究会の可知豊親会長は「名古屋は芸事が盛んだが、盆踊りに関しては誰でも知っている伝統曲がない。代わりに研究会が時々の流行曲に振りを付け、踊りを広げてきた」と説明する。
14日にはヤンキー系ロックバンド、氣志團の「One Night Carnival」も流れた。可知会長が振り付けた今年の新作だ。
盆踊りといえば町内会などが主催し、近所の公園や小学校でご当地音頭などを踊るのが一般的だった。最近は選曲も、参加者の顔ぶれも多彩になってきた。背景にはインターネットの普及がある。
「ネットで盆踊りの開催情報が検索できるようになり、地元以外の会場にも足を運ぶ愛好家が増えた」。シーズン中は東京都内や周辺の盆踊り会場に通う細谷厚誌さんは自らを「盆踊らー」と呼ぶ。5年前には十数人で同好会を発足させた。
同じような同好会は名古屋、大阪などにもあり、地域間交流が盛ん。「よそにいい踊りがあれば、積極的に取り入れてきた」(細谷さん)
一例が8月上旬にJR御徒町駅前で開かれた盆踊り大会。ここでかかった「じょいふる」(いきものがかり)は細谷さんが名古屋で習い東京に取り入れた振り付けだ。「バンザイVenus」(SKE48)、「恋するフォーチュンクッキー」(AKB48)も、名古屋から広がったという。
最近は動画サイトのユーチューブなどにアップされた映像をお手本にする愛好家が多いので、地域を越えて踊りが広がりやすい。インスタ(インスタグラム)映えを狙い、浴衣姿の若い男女が目立つのも今どきの風景だ。
伝統色が薄れるのに合わせ、ダンスイベントとして楽しもうという動きもある。
7月に東京・池袋で開かれた「にゅ~盆踊り」は今年で10回目を迎えた。ダンサーの近藤良平さんが創作し、今年は2日間で約1万人が参加。山本リンダさんの「どうにもとまらない」がかかると盛り上がりは最高潮に達した。
愛知県新城市の「盆ダンス」は櫓の上でDJが音楽を流す。まるで、ディスコかクラブの雰囲気だ。
前回の東京オリンピックでは「東京五輪音頭」がヒットし、全国でご当地音頭が生まれた。3年後の夏、日本の盆踊りはどんな変貌をとげているだろうか。
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振りの違い まるで方言

「同じ東京音頭なのに振りが違って」。都内から千葉県に移住した女性は、地元の盆踊り大会に参加して戸惑ったという。元は同じ振り付けでも、場所が変われば微妙に変化が生じる。いわば方言のようなもの。例えば「相馬盆唄」には巣鴨、恵比寿など複数のバージョンが存在するとか。
さらに、同じ曲でも振りが全く異なることもある。競合するレコード会社がそれぞれ独自の振りを付け、普及させた名残のようだ。
もっと複雑なのは、振り付けを全く別の曲に合わせるケース。藤沢市などでは80年代のディスコ曲「バハマ・ママ」を「炭坑節」の振りで一心不乱に踊るという。こうなるともう、どうにも止められない。
(田辺省二)
[NIKKEIプラス1 2017年8月26日付]
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