憂鬱な「誕生日メール」 顧客と機械的でない交流を
通販コンサルタント 村山らむね
誕生日の月になると憂鬱になる。購入経験はあるが忘れてしまったような会社まで、たくさんの「お誕生月おめでとう」メールを送ってくる。記念日をフックに消費者とコミュニケーションを取ろうとする企業は多い。

しかし、誕生月だからといって可処分所得が増えるわけではない。通常の日常だ。特に私のように大学生の娘もいるような年齢の女性で、何十もの会社から自動設定された「お誕生日おめでとう」を受け取って、うれしい人なんているのか? 私は、憂鬱を超えて、最近は腹立たしい。
昨年もらったものと見比べて、まったく同様の文言の会社も少なくない。せめて、割引コードやクーポンがついていれば、まだ得した気分にもなろうが……。
CRM、つまりカスタマーリレーションシップマネジメント。接点を持った消費者とのコミュニケーションに戦略をもたせ、購入率やライフタイムバリューを上げていこうという考え方はすっかり日本にも定着した。特に単品通販や総合通販の企業では、この考え方を取り入れて結果を出している企業が多い。
最近では、MA、つまりマーケティングオートメーションという広告や宣伝も含めたコミュニケーション全てを統括したサービスが人気だ。きめ細かい顧客へのアプローチが設定できるものの、誕生日メールのように機械的な心の欠けたコミュニケーションが自動化され、消費者の気持ちと乖離(かいり)していくのではないかと、老婆心ながら不安になる。
何を買ったか、いくらで買ったか、どんな頻度で買ったかという、購買行動ばかりを追って、一人ひとりの消費者の本当に思っていることを見失ってはいないだろうか。
そのコミュニケーションに愛があるかを、受け取る消費者側の見方で検証しているだろうか。どのくらいの印刷物やメールマガジンを一人の消費者に送っているかを、見たことがあるか。各部署の連携をとって、一つのブランドとしてストーリーを立ててメッセージを送っているか。
そもそも、企業からもらって一番うれしい「お知らせ」とは何か。商品カテゴリーや価格帯によっても違うが「欲しいものが入った」「欲しいものが安くなった」この2つに集約されるだろう。昨年買った食品がまた入荷した、お気に入りのマーキングをした商品が値下げした。そんなお知らせならありがたい。

少なくとも、誕生日をうれしく思わない世代に対する惰性の「ハッピーバースデー」メールではないはずだ。また、企業の事情からの割引やクーポン、送料無料などの乱発は、じたばたしているとしか思えない。
通販専業のある会社では社長自ら顧客のお宅訪問をして、どのような生活をしているのか、どのようなことを考えているのか、何を喜びとしているのか、対話をするのを習慣づけていたと聞く。あえてグループインタビューではなく、マンツーマンで話すことを大切にしていたそうだ。
人手不足が進むなか、ますます省力化が重要になる。MAツールも百花繚乱(りょうらん)となろう。それを利用しながらも、データではなくきちんと人として顧客を捉えること。生活の全体像をつかみ、何を知らせることがその顧客の幸せにつながるのか考えること。それをCRMの土台に据えてほしいと思う。
ちなみに、今年の誕生日。夫も娘も家におらず、「おめでとう」と言われてうれしい相手からは言ってもらえなかった。へそ曲がりのバチが当たったか。
[日経MJ2017年8月18日付]
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