2017年11月22日(水)

技術だけではない 福島第1核燃料取り出しの課題
編集委員 安藤淳

コラム(ビジネス)
2017/8/21 6:30
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 政府と東京電力は9月中に、福島第1原子力発電所の原子炉ごとに溶融燃料(デブリ)の取り出し法を決める。2021年には取り出しに着手し、廃炉作業は新段階に入るが技術的な課題は多い。地元にはなお不信感もあり透明性の確保と丁寧な説明が欠かせない。

福島第一廃炉国際フォーラムでは議論内容のイラストに参加者が感想シールを貼り付けたが「不安」「不満」なども目立った

福島第一廃炉国際フォーラムでは議論内容のイラストに参加者が感想シールを貼り付けたが「不安」「不満」なども目立った

 「原子炉内のロボット調査で貴重な情報が得られた」。8月3日、国際廃炉研究開発機構(IRID)が福島県いわき市で開いたシンポジウムで経済産業省の星野岳穂原子力事故災害対処審議官は胸を張った。今後の技術開発の加速にも期待を示したが、参加した技術者の1人は「政治的にスケジュールを決められても技術が追いつくだろうか」と首をかしげる。

 原子力損害賠償・廃炉等支援機構が7月末に示した新しい技術戦略プランの概要によると、デブリ取り出しの際に原子炉格納容器を水で満たす「冠水工法」は使わない。低水位での「気中工法」で、横からレールやその上を動くロボットを入れて取り出す「横アクセス工法」を検討する。

 冠水工法は安全性が高いが、事故による損傷を補修し水漏れを防ぐのは難しい。気中工法は放射線の遮蔽や汚染物質の拡散を防ぐために、より一層の工夫がいる。

 シンポジウムでは取り出し作業のアニメーションも示し、1号機で「筋肉ロボット」が炉内の余計な機器や障害物をてきぱきと片付ける様子などが映った。IRIDの奥住直明開発計画部長は「簡単そうに見えるが、放射線量が高いなかで実施するのは大変だ」と認める。あらゆる選択肢を検討して備えることに意味があるという。

 原賠機構が新しい戦略プランを公表した際、福島第1の近隣自治体関係者らから技術内容の細かい質問はなかった。それまでも説明を繰り返しており、冠水工法が難しいという共通認識ができていたためとみられる。

 むしろ「汚染水問題への関心が高かった」と原賠機構の山名元理事長は振り返る。汚染水からは専用装置で放射性物質を除去しているがトリチウム(三重水素)が残り、海に捨てられず保管している。タンクの総数は1000基に近づきつつあり、やがて行き詰まる。

 就任まもない東電の川村隆会長が少し前に、トリチウムの海洋放出を決めたと受け取れる発言をしていた。国の基準では濃度が1リットルあたり6万ベクレル以下なら海洋放出を認めている。希釈して流すのは技術的に可能で、政府関係者や専門家の多くはいずれ放出が必要になると考えている。

 しかし、風評被害を恐れる漁業関係者らは川村会長の発言を唐突と受け止め反発した。吉野正芳復興相も海洋放出に反対を表明、東電や政府への不信感ばかりが残った。トリチウムの性質や、国の基準内で海に出している例はほかにもあることなどを事前に丁寧に説明していれば混乱は防げたかもしれない。

 原賠機構やIRIDも情報発信の改善に取り組んではいる。7月初めに原賠機構が福島県内で開いた「福島第一廃炉国際フォーラム」では立命館大学の開沼博准教授が事前に地元の人々の関心事を聞き取ってテーマなどを検討。会場から質問も受け「双方向」のやりとりを工夫した。

 ほぼ一方的な説明や説得に終始し、参加者から「なぜもっと質問を受けないのか」と声があがった昨年に比べると大きな改善だ。山名理事長は「信頼関係がなければ意図が伝わらないと気付かされた」と話す。

 ただ、フォーラム終了後、テーマをイラスト風に描いた紙に参加者が感想のシールを貼る試みでは、「わからない」「不安」「不満」のシールも目立った。信頼を得ながら廃炉を進める歩みは始まったばかりだ。

[日経産業新聞2017年8月17日付]

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