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節電電力売買「ネガワット取引」、既存事業の武器に

日経エコロジー編集部 相馬隆宏

7月中旬に入ってから、全国の気温観測地点の半数以上で最高気温がセ氏30度以上となる真夏日が続いている。暑さがさらに厳しくなれば、冷房の使用などにより電力需給が逼迫する恐れがある。

需給緩和策として注目されるのが、今年4月から導入された「ネガワット取引」だ。

ネガワット取引は、節電した電力(ネガワット)を売買するというもの。需給逼迫時などに節電に協力してくれた企業や家庭に、電力会社が報酬を支払う仕組みだ。安倍晋三首相が1年半ほど前、「ネガワット取引市場を2017年までに創設する」と発言し、その動向が注目されていた。

今年度から送配電事業者(電力会社の送配電部門)が、電力の需給バランスや周波数を調整する「調整力」の一部としてネガワットの調達を始めた。東京電力パワーグリッド、中部電力関西電力九州電力の4社合計で原子力発電所1基分に相当する95.8万キロワットのネガワットを確保した。

実際に節電を要請するのは需給が逼迫した時だが、まずは節電できる能力を持つ企業に対してお金が支払われた。総額は35億9300万円に上る。政府は、30年に米国と同水準とされる最大電力需要の6%をネガワットで賄う目標を掲げている。

ネガワット取引をビジネスチャンスと見て、様々な業界から多くの企業が参入し始めた。

大阪ガスは、関西電力にネガワットを供給する契約を結んだ。複数の電力需要家を束ねて取引を仲介するアグリゲーターとして事業を展開する。

実際にネガワットを生み出すのは、同社がコージェネレーション(熱電併給)システムやガス空調を販売した顧客企業だ。電力会社から需要抑制指令を受けると、通常は運転していないコージェネレーションシステムを動かして発電したり、電気とガスの空調を併用しているところはガス空調だけを動かしたりする。

大阪ガスはこれまで、158万キロワット分のコージェネレーションシステムを販売している。ネガワット取引で稼ぐという新たな付加価値を武器に、機器の拡販を狙う。

家庭を束ねてネガワットを生み出そうとしているのが、京セラだ。蓄電池の販売を拡大するとともに、太陽電池事業をてこ入れする。

太陽電池は12年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって導入が急速に進んだが、買い取り価格の低下に伴って失速した。今後、FITの買い取り価格が下がり、電力会社から買う電力の価格を下回れば、太陽光で発電した電力を売らずに自家消費する家庭が増えると予想される。

京セラは、任意の時間に電力をためたり使ったりできる蓄電池を売り込むチャンスと見る。太陽光が発電する日中の時間帯は仕事で家を留守にしがちな家庭でも、蓄電池にためておいて夜間などに使うことができる。

さらに、ネガワット取引で収入を得るという新たな使い方を提案することで、機器を買ってもらいやすくなる。

需要家にとって、節電や蓄電池の活用などによって電力会社から購入する電力を減らせば電気代を削減でき、ネガワットを売ることで収入も得られる。2重のメリットがあるネガワット取引をビジネスに賢く活用すれば、既存事業の強化や顧客の囲い込みにもつながりそうだ。

[日経産業新聞2017年7月20日付]

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