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春秋

2017/7/7 2:30
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 昭和13年(1938年)7月3~5日にかけ、阪神地区を襲った集中豪雨は700人を超す死者・行方不明者を出した。谷崎潤一郎の「細雪」は、当時の洪水を土用波が寄せる荒海に例えて克明に描く。やがて激化する戦争に市民が巻き込まれる宿命の予兆にも読める。

▼南海トラフ地震の防災計画に携わる京都大学の矢守克也教授の著書「巨大災害のリスク・コミュニケーション」に、「小説と災害」と題した1章がある。天災という「宿命」に対し物語の登場人物がその時どんな行動を取ったかという「選択」を分析。「防災研究を進めることの本質は宿命の選択への変換にある」という。

▼九州北部を襲った豪雨で、福岡県朝倉市では降り始めからの雨量が平年の7月の1カ月分を大きく超えた。古里の映像を見て肉親や知人を案じ眠れぬ夜を過ごした人も多いだろう。現場で活動した消防団員などの犠牲者を悼みたい。一方、気象庁や自治体、自衛隊など関係者の不眠不休の尽力で、救われた命も多いはずだ。

▼気象庁が発表した「大雨特別警報」は、最先端の観測技術で得たデータをスーパーコンピューターで解析。降水量の予測値を瞬時に計算して、早期避難を促すことに貢献している。鴨長明が「方丈記」で記したように、世は無常だ。だが、人間は微力だが無力ではない。防災科学は宿命を、命を守る選択に変えようと挑む。

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