日欧合意を礎に自由貿易圏広げよ - 日本経済新聞
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日欧合意を礎に自由貿易圏広げよ

日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が大枠合意した。安倍晋三首相とEUのユンケル欧州委員長らが宣言した。

日本とEUをあわせた経済規模は世界の約3割を占める。EPAが発効すれば世界最大級のメガ自由貿易協定(FTA)となる。米国が環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を決めるなど保護主義の動きが広がる中、自由貿易の価値を世界に示す意義は大きい。

TPP11の道筋つくれ

昨年の英国のEU離脱決定、今年1月のトランプ米政権の誕生は、経済のグローバル化に背を向けた現象だった。外国からの輸入や移民の増加への反発が強まり、自由貿易に大きな逆風が吹いた。

日EUが交渉を始めてから4年あまりを経て、20カ国・地域(G20)首脳会議の開催直前での大枠合意である。保護主義への対抗を行動で示した点を評価したい。

日EUのEPAは、関税がなくなる貿易品目が全体の95%を超える。日米を含む12カ国で合意したTPPと同じ程度の高い自由化水準としたのは妥当だ。

たとえば、欧州産チーズは日本が低関税輸入枠を設け、税率を段階的に下げる。欧州産ワインの関税は撤廃され、豚肉の関税も段階的に削減される。日本の消費者は欧州産の飲食料品を今より低価格で買いやすくなる。

一方でEU側は日本車にかける関税を協定発効から7年かけて撤廃する。緑茶や日本酒の関税も撤廃する。関税交渉は全体としてひとまずバランスのとれた形で決着できたといえる。

EPAは関税だけではない。サービス、知的財産、電子商取引、企業統治など幅広いルールで合意した。透明性の高い21世紀型協定といわれる理由である。

さらに日EUは次の課題として、規制・制度面での協力を加速すべきだ。自動運転車の国際標準づくりは双方が主導できる分野だ。データの移転や活用の分野での協力も拡大してはどうか。

欧州調査機関によれば、EPAによる日EU間の貿易・投資の拡大でEU経済を最大で約0.8%、日本経済を約0.3%押し上げる効果があるという。日EUは協定文書を早く固めたうえで、議会承認を含め発効にむけた手続きを速やかに進めてほしい。

米政権がTPP離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を決め、米欧間の環大西洋貿易投資協定(TTIP)も交渉が滞っている。そんな中で日欧はEPAを基礎として、自由貿易圏の拡大へと世界をリードするときだ。

日本はまず、米国を除く11カ国によるTPPの早期発効に指導力を発揮すべきだ。来週には日本で11カ国の首席交渉官会合を開く。11月の首脳レベルの合意にむけ、各国の間合いを縮めてほしい。

日中韓など16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉は、中印が貿易自由化に慎重なために進展が遅れている。日本は後発の東南アジアの国を支援しながら、質の高い合意を引き続き働きかけねばならない。

今後の焦点のひとつが米国への対応である。仮に米国が日米2国間のFTA締結を要求した場合でも、日本は今回のEUとのEPAや、TPPの合意内容を材料として冷静に対応する必要がある。

米鉄鋼制限に反対を

日本の関税削減により欧州やオーストラリアからの農産品の対日輸出が増えれば、日本市場で不利益を被るのは米国の農業者だ。日本は米国に「日EUやTPPを大きく上回る譲歩はない」と伝え、TPP並みの日米FTAや米国のTPP復帰を促すべきだ。

EUもメキシコとのFTA再交渉や、ブラジルやアルゼンチンが加盟する南部共同市場(メルコスル)とのFTA交渉を控える。米国とのTTIP交渉を再開する機運もいずれ出てくるだろう。

気がかりなのは、米政権が安全保障を理由に鉄鋼の輸入制限を検討していることだ。米通商拡大法232条に基づく措置で、関税引き上げなどに踏み切れば、カナダや欧州、日本の鉄鋼メーカーに大きな打撃を与えるのは確実だ。

反発した各国が世界貿易機関(WTO)に提訴すれば、報復合戦に発展する恐れがある。新興国が米国にならって安易に輸入制限を発動すれば自由貿易体制は揺らぎ、世界経済は低迷しかねない。

こうした保護主義の動きに、日欧は毅然と反対しなければならない。日EUのEPA大枠合意はそのための第一歩である。G20首脳会議での議論をリードするのはもちろん、自由貿易圏を地道に広げる歴史的な責務を果たすべきだ。

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