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「技術ありき」は本末転倒 業務の課題を解決してこそ
ITジャーナリスト/コンサルタント 林信行

2017/6/27 6:30
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 4月に書いたこのコラムで、日本の多くの企業がIT(情報技術)機器を導入しているものの、活用方法が昭和の視点にとどまり、効率向上に貢献していないという話を書いた。(リンクはこちら

最新の技術が生活や文化に与える影響を25年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆した他、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。
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最新の技術が生活や文化に与える影響を25年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆した他、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

 私は百貨店やアパレル会社、地方自治体などから「我々はITに疎く、導入も活用もできていない」という相談を受ける。そうしたときに「大事なのはテクノロジーではない」と伝えることが使命だと思い始めている。

 マイクロソフトの「ウィンドウズ95」を契機にインターネットが広まってから22年。毎年膨大な量の「便利」が発明され仕事や生活に入ってきている。しかし、我々の仕事や生活がそれほど楽になったとは思えない。

 例えば、我々は電子メールのおかげで世界中の人々と24時間簡単に交流できるようになった。一方、コストがかからないために迷惑メールも増え続けている。企業や個人の情報を抜き出そうとするメールも多い。

 我々を困らせているのは、こうした悪意のメールだけではない。権限を部下に委譲していたはずなのに「私は責任を果たした」という言い訳のような、さまつな業務報告メールを「CC/BCC」入りで部下から受信するようになる。

 以前、あるIT系のメディアが過剰なCCやBCCメールによって奪われる労働時間を時給と掛け合わせ、メールが企業にどれだけ大きな損失を与えているかを算出した記事を掲載した。おそらく、その傾向はひどくなっているはずだ。

 2010年に米アップルの「iPad」が登場したとき、多くの教育者が「これで今の教育を変えられる」と喜んだ。確かにそうした先見性を持った教育者は、新しい道具を武器に新境地を切り開き、世界に誇れる先進事例をつくった。

 一方、後からその上辺だけをなぞった多くの学校は、とりあえずタブレット端末を大量に導入してみた。だが、それらをうまく活用できる教職者がいないため、端末がホコリをかぶったまま放置されている。

 IT機器導入の本質は業務における課題の解決だ。しかし「テクノロジーの導入」があまりにも注目され過ぎるあまり、本末転倒になっている事例が増え続けているのは憂慮すべき事態だ。

 1990年代にカンパニー制を採用する日本企業が現れた。筆者はこれにより、従業員の当事者意識が薄れたり、中長期の成長よりも短期的な成功が重視されたりするなど、企業の成長の根幹にダメージを与える弊害が起きたと考えている。

 システム担当者やIT部門があてがう業務用システムは、組織の構造と同じように、社員が自分たちの力で変えられるものではない。そのため、問題があっても俎上(そじょう)にあがらないことが多い。経営者の中には「せっかく、テクノロジーを導入したのに売り上げがあがらない。成果が出ないのは社員の質が下がったせいだ」と考えてしまう人が多い。

 そうした誤解を避けるため、経営者は何をすべきか。筆者はアップルの「iPhone」が登場した2007年から講演などでこう語ってきた。

 「どのような意図でこの会社は誕生したのか、社員たちはどのような志を抱いて就職したのか。その総和の先にこそ、目指すべき姿がある」

 そうした理想の実現は難しいかもしれない。だが、水産資源の枯渇を防ぐため、iPadで漁獲量を記録するようになった漁師たちがいる。救急患者を受け入れられる病院をすぐに見つけるため、iPadを活用する救急隊もいる。

 テクノロジー導入の前に、その理由を慎重に考えたり、テスト期間を設けたりする方がよい。課題を把握してから導入したテクノロジーこそ、組織に長期的価値をもたらすと信じている。

[日経産業新聞2017年6月22日付]


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