遺伝資源の活用で後れ取るな
日本の都市名を冠して7年前に採択された環境分野の国際取り決めに、わが国がやっと参加することになった。途上国などで入手した生物の遺伝子をもとに薬などを開発した場合、利益の分配を定めた「名古屋議定書」である。日本政府が先月下旬、批准した。
植物や微生物には薬や化粧品などの有用成分をつくるものがある。かつては先進国が、生態系が豊かな途上国から無断で生物を持ち出し、薬などの販売で得た利益を独占することがあった。
こうした行為を防ぎ、提供国と利用国の間で利益を分け合うことを定めたのが名古屋議定書だ。2010年に名古屋市で開いた国連の会議で合意し、14年に発効したが、日本の批准は大きく遅れた。
産業界から届け出などの手続きが煩雑だとして懸念が出たのに加え、国内指針づくりで関係省庁の調整が手間取ったためだ。
その間、90を超える国と地域が批准し、先進国などの企業が途上国で遺伝資源を探すビジネスを本格化させている。途上国の生物多様性を守るため、政府機関が加わる国際協力も動き出した。
日本の政府や企業は批准を機に、出遅れを挽回してほしい。
国内の食品、化粧品メーカーは早くから東南アジアなどに進出した企業も多く、研究者交流の歴史もある。議定書のルールを踏まえ、提供国にも利益が生じるようなビジネス機会を生めるはずだ。
政府もルールの意義や手続きを丁寧に説明し、遺伝資源の活用と保護の両立をめざすべきだ。
環境分野では温暖化防止のためのパリ協定でも日本は出遅れた。米トランプ政権が離脱を表明したとはいえ、欧州や中国が素早く批准して積極的な姿勢を示したのに比べ、日本の批准は遅かった。
同じことを繰り返していては、日本は国際社会から環境保全に消極的と受け止められかねない。議定書を名古屋で採択した当時、日本政府にはこの分野でリーダー役を果たそうという気概があった。その初心を取り戻すときだ。