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スポティファイが仮想通貨技術を取得 音楽業界に波紋

藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)

「Napster(ナップスター)」という名前に記憶のある人もいるだろう。1990年代末に誕生し、その後数年で急成長した音楽ファイル(楽曲データ)を個人間で共有するためのソフトウエアとインターネットサービスだ。

当時は、音楽流通がCDからデジタルへの転換期にあり、購入したCDをデジタル化し、パソコンや音楽プレーヤーで楽しむスタイルが普及しようとしていた時期にあたる。大学生らが中心になって、手持ちの音楽ファイルをナップスターで大量に交換しあい、米国では社会問題ともなった。

ナップスター側はこれを「私的な複製(とその貸し借り)」と主張したものの、音楽業界からの訴訟にやぶれ、結局サービスは消滅することとなった。同時期にアップルが、「iTunes(アイチューンズ)」を、ナップスターと対照的に、楽曲のダウンロードビジネスを管理された流通システムとして開発し業界を納得させた。

20年近く前、音楽業界を震撼させたナップスターだが、その再来を思わせる「事件」がいま、起きようとしている。主役は「スポティファイ」だ。

スポティファイのサービスは、「ストリーミング」という、楽曲データをダウンロードではなく、インターネット経由で再生する放送のような仕組みを用いる。今では月間1億人ものユーザーが利用する世界最大手の楽曲配信サービスで、アップルもグーグルも、ストリーミングでは同社を追いかける立場だ。

スポティファイは、もちろん権利者に印税を支払う事業だが、定額聴き放題や広告視聴型無料モデルを提供したりと、伝統的な印税支払いになれたレコード会社やレーベルとの間であつれきが絶えない。

楽曲データのダウンロードに比べ、再生数をもとにした印税支払いの難しさもあってか、「適切に印税が支払われていない」との指摘もたびたびだ。つい最近もストリーミング配信する多くの楽曲の権利を取得していないとの業界団体の主張で、多額の和解金を支払ったばかりだ。

そんな中、同社が打ち出したのが、ナップスターのように個人のパソコンなどを結び楽曲を分散管理する仕組みと、仮想通貨「ビットコイン」にも使われる、改ざん困難な取引履歴を生成する「ブロックチェーン」技術の利用だ。これを音楽などの著作物の取引に適用しようとしてきたベンチャー企業のメディアチェーン社を先ごろ買収したのだ。

スポティファイがこの技術をどう生かそうとしているのか明らかではないが、無数に存在する楽曲データの取引を厳密かつ低コストで運用しようという技術的な意図があることは明らかだ。さらに、大手レーベルに属さない膨大な数の独立系アーティストらとの契約にも光が差してくる。ブロックチェーン技術を用いれば、再生回数に応じた支払いを人手をかけずに自動的に行うような仕組みも構築できるからだ。

著作権管理団体のような大きな組織が介在する意義が失われる。今世紀初頭にナップスターが音楽業界の秩序を揺さぶったような衝撃へと発展する可能性が大いにある。

[日経MJ2017年5月15日付]

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