厳格監査から逃げる企業は信頼されない
上場企業にとって何よりも大切なのは株式市場で信頼されることである。それを改めて痛感させる企業の一つが東芝だ。
巨額損失に揺れる同社は、監査法人を大手のPwCあらた監査法人から準大手法人に切りかえる方向で検討している。米原子力発電事業について、内部統制などに問題なしとする東芝と、さらに調査すべきだと主張するあらたとの溝が埋まらないからだ。
このままいくと東芝は2017年3月期の本決算で適正意見が得られず、上場廃止のリスクが浮上する。監査法人の変更は最悪の事態を避けるための苦渋の対策とみることもできる。
しかしながら、東芝が監査法人の変更で目先の決算を乗りきっても、それがかえって市場の不信を買うことにつながらないか。まず問われるべきは、そこだ。
上場企業は多くの人や企業から資本を募っている。経営内容を包括的に記す財務諸表の信頼性を保証する監査は、市場が健全に機能するうえで欠かせない。自社に都合良く監査法人を切りかえる行為は「オピニオン・ショッピング」(監査意見の購入)と呼ばれ、市場の視点に立てばもっとも信頼できない企業と映る。
東芝は15年に発覚した会計不祥事の対応策として前期から、監査業務を関係の長かった新日本監査法人からあらたに変更した。ここにきて再び監査法人の変更となれば、不祥事の再発防止を誓った経営陣の姿勢が本気なのかどうかも疑われてしまう。
東芝のようなグローバルな大企業の監査を、日本の準大手法人が担えるかどうか心もとない部分もある。問題の中心は米国会社で、事業内容も複雑な原子力発電だ。国際ネットワークと原発への深い知見を備えた監査法人が、国内で多く見つかるとは考えにくい。
あらたが16年4~12月期決算の監査で「意見不表明」としたことが、同法人への東芝の不信感を決定的なものにした。監査に妥協があってはならないが、東芝とあらたがいま一度協議し、不信を解く糸口を見いだせないものだろうか。米原発事業に関する東芝からのさらに詳しい説明が必要になるかもしれない。
市場の信認を失った上場企業は資本調達に支障をきたし、衰退に歯止めがかからなくなる。東芝経営陣はこの市場の鉄則を改めて認識すべきだ。