険しさ直視し震災復興たゆまずに
東日本大震災からきょうで6年になる。東京電力福島第1原子力発電所の事故が重なり大きな被害が出た福島県では、なお8万人近くが避難を続ける。宮城、岩手県などの津波被災地でも、復興住宅が完成したのに入居が進まないといった課題が浮かんでいる。
年月を経て見えてきたのはコミュニティーを再建することの難しさだ。復旧の進捗も地域によって差が出ている。国や自治体はこれらの現実を直視し、実効性の高い復興策に見直していくときだ。
帰還しやすい街に
福島第1原発から20キロ圏にある福島県楢葉町。2015年9月に避難指示が解かれたが、約7千人いた町民のうち戻ったのは1割にとどまる。役場近くにできた仮設商店街は、復旧工事の作業員が立ち寄るほかは人影は少ない。
福祉施設や金融機関も多くが町外に移転したままだ。「住民がもっと戻らないと店舗などを再開できない。再開しないうちは住民も戻らない」と、町の職員はジレンマを打ち明ける。
原発周辺の放射線量は徐々に下がり、これまでに楢葉町を含め5市町村で避難指示が解除された。だが田村市東部で7割の住民が戻ったほかは、帰還率は1~2割に低迷している。「子どもへの放射線の影響が心配」「避難先で生活再建にメドが立った」などの理由で戻らない住民も多い。
政府は4月1日までに川俣町、飯舘村など4町村でも避難指示を解除する。事故直後に比べると、避難指示が出ている地域の面積や対象人口は約3分の1に減る。
残った帰還困難区域についても「拠点地区」を定めて除染を始め、5年後をめどに避難指示の解除をめざす。だが、この区域でも帰還を望む住民が少ないうえ、拠点地区以外の地域が切り捨てられるのではという懸念も出ている。
帰還を希望する人が戻りやすいように、町役場などを中心にコンパクトな街をつくり、その地区以外からの避難者も移り住んでもらう方策が必要だ。企業や工場を誘致し、とくに若い世代の雇用を確保することも欠かせない。
帰還を諦めた人への支援も忘れてはならない。現状では東電からの賠償金は避難指示解除から1年後に打ち切られる。移住先での生活再建が軌道に乗るまでは、就労支援策などを続けるべきだ。
福島第1原発の廃炉はこれから難関に差し掛かる。作業を滞らせてきた汚染水の量が減り、地下水の流入を防ぐ凍土壁もひとまず効果を上げつつある。だが事故で溶け落ちた「デブリ」と呼ばれる核燃料が原子炉のどこに、どんな状態で残っているのか、いまだにわかっていない。
政府と東電は今年中にデブリの回収方法を決め、21年に作業開始をめざしている。デブリは極めて強い放射線を出し、人が近づけないどころか、ロボットも故障が相次いでいる。回収の難しさがわかってきたが、国内外の技術を集め総力を上げて進めてほしい。
津波で甚大な被害を受けた岩手県や宮城県では復旧がほぼ終わり、各地で高台の宅地や災害公営住宅が完成した。だが、すでに空き地や空き家が目立ち始め、ここでも「戻らない被災者」が問題になっている。
地域の持続力高めよ
人口の約1割が犠牲になった岩手県大槌町では、町の中心部の約30ヘクタールの土地を平均2メートル程度かさ上げする事業が大詰めを迎えている。しかし、そこに戻る予定の被災者は当初想定の半分程度にとどまる見通しだ。高齢などの理由で自力で家を建てるのを諦めたり、避難先で暮らし続けると決めたりした人が相次いでいるからだ。
新たに整備した土地や公営住宅を使って、街のにぎわいを取り戻したい。被災者以外の住民にも利用を求め、福祉施設や観光客向けの貸家として有効活用すべきだ。
新たな街では住民同士の交流を促す仕組みづくりや、高齢者の足の確保も必要になる。バス路線などの開設が難しければ、自家用車で客を送迎する「ライドシェア」を導入すべきではないか。
住民から買い取った沿岸部の土地をどう活用するのかも今後の課題になる。公園や遊歩道などに利用する場合が目立つが、避難路を確保したうえで、産業再生の拠点としてもっと生かしたい。
被災地の共通点は、元から人口減少や高齢化に直面し、震災が追い打ちを掛けたことだ。政府は16年度から5年間で6兆5千億円の復興財源を確保している。被災地が持続可能な地域として再生できるように事業を再点検し、無駄のないよう予算を使ってほしい。
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