日米同盟を強めアジアの安定に貢献を
多くの国民がほっとしたことだろう。来日したマティス米国防長官が、尖閣諸島を含む日本防衛に米軍がしっかりと関与していく方針を明確にした。指摘するまでもなく、日米同盟はわが国の外交・安保の基軸である。アジア太平洋地域の安定のため、この絆をより強固にする道筋を考えたい。
トランプ大統領は選挙戦で「米軍受け入れ国は駐留経費を全額払うべきだ」と主張し、在日米軍撤退の可能性をほのめかした。マティス氏が初の訪問先に日韓を選んだのは、米国はアジアを見捨てるとの臆測を打ち消すためだ。
「安心してください」。マティス氏が一連の行事終了後の記者会見で、わざわざこんな言い方をしたのは、日本側の懸念をよく理解していたからだろう。
駐留経費の問題がすべて片付いたわけではない。日米両政府とも「協議では全く話題にならなかった」と説明するが、何やら不自然である。今回は太陽に徹したトランプ政権が一転して北風を吹かしてくるかもしれない。
大事なのは、我が国を守るためのグランドデザインを自ら描き、それに基づき、思いやり予算の適正額を主張することだ。安保と通商を取引することは、絶対に避けなければならない。
マティス氏と稲田朋美防衛相の会談では、アジアの地域情勢の分析に多くの時間が割かれた。日米だけの協力でなく、韓国、オーストラリア、インドなどを含めた複層的な安保のネットワークづくりも話し合われた。
こうした戦略はオバマ前大統領の時代から進められてはいた。しかし、オバマ氏とフィリピンのドゥテルテ大統領とのあつれきなどもあり、必ずしも順調とはいえない状況にあった。
北朝鮮の核開発、中国の海洋進出などで地域に波風が立つ中で、これでは安心できない。今回、日米は東南アジア諸国の海上警備能力の向上を支援していくことを申し合わせた。こうした合意を着実に前進させていきたい。
自民党の保守派には「日米で中国を押し返そう」など勇ましい発言をする向きが少なくない。会見で対中政策について聞かれたマティス氏は「外交的努力に訴える」と語るにとどめた。
過激なもの言いで物議を醸すトランプ政権でさえ、安保担当者の言動はかくも慎重である。その言葉の重さをよく認識したい。