目に余るトランプ政権のメキシコたたき
トランプ米新政権のメキシコたたきがおさまらない。
メキシコとの国境に築く壁の建設費を100%メキシコに払わせるとの主張を続けているほか、高関税の賦課や北米自由貿易協定(NAFTA)からの撤退をちらつかせて同国から米国への輸入を減らそうとしている。
主張が理不尽であるのはもちろん、こうした攻撃によってメキシコ経済が危機に陥る懸念もある。都合の良い「取引」につなげるための手口かもしれないが、友好国に対するこうした仕打ちは新政権への警戒感を世界的に高める可能性がある。
トランプ政権が国境の壁建設にこだわるのは不法移民の流入を防ぐためだ。だが、その費用をメキシコが支払わなければならない理由はどこにもない。メキシコに負担させる方法としては輸入課税、ビザ取得費引き上げ、在米メキシコ人の国元への送金に対する課税などが取り沙汰されるが、いずれも正当な方法とはいえない。
壁の建設問題よりさらに重大なのはメキシコからの製品流入を力ずくで抑えようとする政策だ。関税が原則ゼロであるNAFTAの見直しのほか、より懲罰的な高関税や輸入課税の導入などが浮上している。
いずれも実施されれば輸出の8割を米国に依存しているメキシコ経済に大きな打撃となりかねない。経済減速や米大統領選の結果を受けて同国通貨ペソは大幅に下落しているが、ペソ売りが加速して通貨危機に陥る恐れすらある。
米国の企業や消費者も被害を受ける。米国で生産する多くの企業がメキシコからの輸入で部品を調達しており、コスト上昇圧力になる。消費者には価格転嫁による物価上昇という形で負担が及ぶ。
トランプ政権が進めるべきなのはメキシコとの冷静な対話だ。NAFTAについては、撤廃は論外だが、労働・環境基準の導入や原産地規則の見直しなどの余地はあるかもしれない。不法移民は最近はメキシコ以南の国々からの増加が目立っており、両国が対応策で協力する道はあろう。
メキシコへの対応から浮き上がるのは、相手の弱みにつけこみ、強引に要求を突きつけて成果を得ようとするトランプ流の手法だ。仮に一時的な利益を得ても、相手国や世界の不信感を高めれば、外交政策上は敗北になりかねない。そのことに早く気づくべきだ。