2018年2月22日(木)

「米国第一」を世界に拡散させるな

2017/1/22 2:30
保存
共有
印刷
その他

 世の中は持ちつ持たれつだ。「俺が俺が……」の人は必ず周囲とあつれきを生む。国際社会だって人の世だ。すべての国が国益に固執したら、行き着く先は国際紛争だ。米国のトランプ新大統領が掲げる自国第一主義が世界を覆い尽くすことのないように、協調の輪を広げることが大切だ。

 「新しいビジョンがこの国を支配する。それはアメリカ・ファーストだ」。トランプ氏は就任演説で改めてこう力説した。

保護貿易阻止へ行動を

 国益をないがしろにする政治指導者はいない。問題は手法だ。トランプ氏は「保護こそが繁栄と強さにつながる」と、保護貿易主義を駆使して強引に投資や雇用を呼び戻す姿勢を示した。

 公正さを欠いた自由貿易では自国の産業が不利になる。そんな主張ならばまだわかるが、保護主義こそ正義と言わんばかり。ダボス会議で中国の習近平国家主席が自由貿易の推進を訴えたが、まるであべこべだ。

 トランプ政権はさっそく「環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱」を発表した。知的財産などを含む新時代の貿易・投資ルールの漂流は憂慮すべき事態だ。

 北米自由貿易協定(NAFTA)でもメキシコなどとの再交渉を表明した。2国間交渉で不均衡の改善を個別に要求する可能性もある。管理貿易的な手法が横行すれば、貿易の流れが滞り、世界経済の成長を損ねかねない。

 メキシコに工場を移す自動車大手などに高関税を課すと脅し、米国内の雇用増を打ち出す企業を称賛する。そうした手法は短期的な評価を得ても、中期的には国際的な供給網の寸断や企業活動の萎縮を招く。米消費者も割高な商品を買わされて不利益を被る。

 トランプ政権は年4%の経済成長を目指し、世界的にみて高い法人税の減税、道路や空港などのインフラ投資、エネルギーや金融の規制緩和に取り組む姿勢だ。経済活性化につながる政策も多いが、財政赤字の拡大や温暖化対策との整合性に配慮する必要がある。

 通貨政策も一貫性を求めたい。トランプ氏は「ドルは強すぎる」と通貨安誘導を示唆した。ところが、ムニューチン次期財務長官がすぐに「長期的には強いドルが重要」と軌道修正した。そもそもドル高が進む背景には積極財政策で米経済の成長が高まるという市場の期待感がある。闇雲に口先介入をしても市場は混乱するだけだ。

 日本は欧州連合(EU)などと手を携え、米国の保護主義への傾斜に歯止めをかける必要がある。粘り強く自由貿易体制の大切さを説くとともに、日・EUの経済連携協定(EPA)やアジア圏での質の高い経済連携を実現させる。そうした具体的な行動が重要だ。

 歴代の米大統領は就任演説で未来への希望を語ってきた。トランプ氏は相変わらず既成政治への批判が中心だった。敵をつくり、自己を正当化する劇場型の政治手法は、国民の分断を深めるだけだ。「我々はひとつの国民だ」との呼びかけに現実味はなかった。

 大統領として発した最初の行政命令は、オバマケアと呼ばれる医療保険制度改革の見直しだった。新たな設計図もないまま、中低所得層を無保険状態に戻せば混乱は避けられない。

日米同盟を再確認せよ

 国内のあつれきが深まれば、外交に目を向ける時間は少なくなり、政権の内向き志向は一段と強まろう。そうなれば、中国の海洋進出や北朝鮮の核開発などで不安定化しつつあるアジアの安全保障環境はさらに悪化する。

 トランプ氏が安保政策への関心が薄いのは、就任演説で「イスラム主義テロリズムの撲滅」以外にほとんど言及がなかったことからも明らかだ。

 安倍晋三首相は今月、オーストラリアなどを訪問し、地域の連携の枠組みを強化することでアジアの安定を目指す姿勢を示した。妥当な判断だが、あくまでも補完措置だ。通商と同じく、安保においても周辺国と連携し、米国をアジアに関与させ続けるよう努めることが重要になる。

 自分たちの生活が脅かされる。英国のEU離脱もトランプ政権の誕生も、人々のそんな不安感によって起きた現象だ。今年は欧州でフランス大統領選など重要な選挙が相次ぐ。ポピュリズム(大衆迎合主義)的な風潮にどうすれば待ったをかけられるか。

 日本ができる最大の貢献は、トランプ政権に同盟の価値を再確認させ、それをより大きな枠組みに広げることだ。安倍首相の役割は極めて重大である。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

関連キーワード



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報