習演説が映す世界の混迷
20日に閉幕する世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)は、内向きの傾向を強める世界の政治や経済の姿をそのまま映し出すものとなった。
自由で開放的な経済や社会の発展を促す役割を担ってきた欧米の政治指導者たちはあまり姿を見せず、会議の主役として保護貿易主義の拡大に警鐘を発したのは中国の習近平国家主席だった。
中国は世界経済での影響力を強めているが、経済の自由化や民主化という点では大きな問題を抱える。その指導者にグローバル化の意義を訴える役回りを求めざるをえないほど、世界は混迷の度を深めているとも言えるだろう。
ダボス会議はモノや人の自由な移動がもたらす恩恵の大きさを訴えると同時に、近年は技術革新の波に取り残された人々への支援拡大も強く求めてきた。成長の果実が皆に共有される仕組みを作らないと、多国籍企業を敵対視するような大衆迎合的な政治の台頭を招きかねないとの危機意識による。
だが、英国の欧州連合(EU)離脱決定に加え、自由貿易に批判の矛先を向けるトランプ氏が米大統領選挙で勝利するなど、現実の政治は予想以上に内向きになってしまった。今回の会議ではこうした流れにどう歯止めをかけるかが改めて問われたが、会議の常連だった独仏の首脳がともに欠席するなど異例の状況になっている。
こうしたなかで一段と重要になっているのは、ダボス会議の参加者の多数を占めるグローバル企業の経営者や起業家が果たすべき役割だ。自社の技術をどう社会全体の利益につなげるのか。人工知能(AI)などの先端技術がどんなインパクトを人々の生活にもたらし、負の影響を減らすにはどんな環境整備が必要なのか。
変化の現場にいるビジネスリーダー自身が解決策や政策提案を示し、政治の後押しをすることが求められている。民間人が国の壁を越え、世界のために知恵を出しあうことこそがダボス会議の本来の意義でもあろう。