Eの新話(日経産業新聞)

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

金融安定へ 温暖化の財務リスク開示案の中身
日本総合研究所理事 足達英一郎

2017/1/23 6:30
共有
保存
印刷
その他

 世界の金融行政の元締めといえる金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」がおよそ1年をかけて検討した提言書原案が昨年12月14日に公表された。地球温暖化が世界経済に深刻なリスクを招き、多くの分野に影響を及ぼすという問題意識に基づくものだ。気候変動に伴う財務影響が正しく評価されないまま突如としてコストが顕在化すれば、金融市場を不安定にさせるという懸念が起点となった。

画像の拡大

 タスクフォースに期待されたのは、企業活動において、投資家、銀行、保険会社などが重大なリスクを理解するうえで役立ちそうな気候関連財務情報の開示方法を開発することであった。

 今回、(1)気候関連のリスクと機会に関わる組織のガバナンスを開示する。(2)気候関連のリスクと機会がもたらす組織のビジネス、戦略、財務計画への実際の及び潜在的な影響を開示する。(3)気候関連リスクについて、組織がどのように識別、評価、及び管理しているかについて開示する。(4)気候関連のリスクと機会を評価し管理する際に使用する指標と目標を開示する――という4項目が提言の骨子となった。

 特徴は、一般企業向けと投資家、銀行、保険会社向けそれぞれに、望まれる気候関連財務情報開示方法が示された点だ。

 例えば、銀行には「総資産のなかの化石関連資産の額と割合や、気候関連の事業機会に結びつく資金供給の額を開示すべきだ」といった記述が盛り込まれた。原案は2月12日までの意見招請を経て、7月7~8日にドイツのハンブルクで開催予定の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)前に、金融安定理事会に答申される見通しである。

 この原案で、専ら目を引いたのは「シナリオ分析」の利用を強く推奨するとした点だ。

 こうしたシナリオの代表例としては、地球の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2度未満に抑えるための開発経路と排出曲線を示す、いわゆる2度シナリオがある。ほかにも、現在の気候変動緩和策が奏功しなかった場合の成り行きシナリオ、パリ協定の国別約束(NDC)シナリオなどが例示されている。

 言うまでもなく、気候変動の重大な影響のタイミングや規模には大きな不確実性がある。見通しが困難であるが故に、複数のシナリオをもとに、気候関連財務情報開示を行うことが重要だとしたのは一般企業、投資家、銀行、保険会社のいずれにも荷が重いだろうが、極めて合理的ではある。

 一方、気候関連財務情報開示をめぐって、金融関係者の熱い視線が注がれているのがフランスの取り組みだ。

 フランスは、2015年8月17日に成立させた「グリーン成長のためのエネルギー移行法」の173項規定5に、「政府は16年末までに、銀行が通常行っているストレステストに、気候変動リスクをどう反映したらよいかに関する報告書を作成し、議会に提出しなければならない」との一節を盛り込んだ。

 ストレステストとは「健全性審査」とも呼ばれ、例えば「今後3年間で景気が失速した場合、銀行の中核的自己資本はどれだけ毀損するか」というような試算を意味する。欧州では、資産査定の結果、自己資本比率の大幅な低下リスクが判明した銀行に対して、欧州中央銀行や各国の当局が個別に指導することとなっている。

 ここに気候変動リスクを要素として取り込む場合の方法論が果たしてどうなるか、という関心が報告書への注目の理由だ。ここでも「~した場合」に該当するシナリオ分析が大きな鍵を握ることは間違いない。一般企業や金融機関にとって、気候変動のシナリオを的確に設定できる能力が、経営の巧拙に結びつくという時代が、現実味を帯びてきているのである。

[日経産業新聞2017年1月19日付]


「日経産業新聞」をタブレットやスマートフォンで

 全紙面を画面で閲覧でき、各記事は横書きのテキストでも読めます。記事の検索や保存も可能。直近30日間分の紙面が閲覧可能。電子版の有料会員の方は、月額1500円の追加料金でお読み頂けます。


人気記事をまとめてチェック

「テクノロジー」の週刊メールマガジン無料配信中
「テクノロジー」のツイッターアカウントを開設しました。

Eの新話(日経産業新聞)をMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップテクノロジートップ

企業・業界をもっと詳しく

企業がわかる。業界がみえる。ニュースとデータをまとめてチェック!

関連キーワードで検索

足達英一郎日本総合研究所

【PR】

Eの新話(日経産業新聞) 一覧

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

ダウ・デュポンが出資比率を引き上げるサウジアラビアの石化複合施設=ロイター

ロイター

サウジ合弁買い増すダウ 米と中東の2極体制へ備え

 米ダウ・ケミカルと米デュポンが8月31日に統合手続きを終え、世界最大の総合化学メーカー、ダウ・デュポンが発足した。ダウ・ケミカルはその直前、サウジアラビアでの巨大合弁事業について、出資比率の引き上げ…続き (9/18)

環境分野でデジタル革命 周辺整備が不可欠

 人工知能(AI)、ビッグデータなど呼び名は様々だが、情報の蓄積、データの高速処理、インターネット、それにセンサー技術を統合的に活用するデジタル技術のポテンシャルの大きさは誰もが認めるところだ。
 同分…続き (9/11)

日本が議長国を務めたCOP10で名古屋議定書は採択された

名古屋議定書、国内でも効力 生物多様性保全へ一歩

 8月20日、わが国でもようやく効力が生じることとなった「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」は、2010年10月18~2…続き (9/4)

新着記事一覧

最近の記事

【PR】

TechIn ピックアップ

09月20日(水)

  • インテルとWaymo、完全自動運転の実現を目指して協力
  • 触って感じた「iPhone X」第一印象―「iPhone 8/8 Plus」とどう違う?
  • グーグルも交えて大混戦、通信・メディア再編の鍵は映像とモバイル

日経産業新聞 ピックアップ2017年9月20日付

2017年9月20日付

・香港のIT企業「オクト3」、電子コインで資金調達
・キャトル、試供品、狙った顧客層に配布
・日本バルカー、複数用途対応のグランドパッキン販売
・鉄鋼、旺盛な需要下で相次ぐ設備トラブル
・低コストの宅配ロッカー、ウィルポート 外部電源不要に…続き

[PR]

関連媒体サイト