2019年8月25日(日)

AIで日本を強く(4)脅威論超え技術使いこなす教育を

2017/1/17 2:30
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人工知能(AI)は身近になってきた半面、懸念も広がっている。世界の開発競争が激しくなるなか日本は技術先進国の座を保てるのか、人の仕事がAIに奪われはしないか、といった不安だ。

AI脅威論ともいえる見方を拭うため教育の役割は大きい。必要なのはAIを操る知識や技能だけではない。人は機械にどう向き合うのか、人の知性や尊厳とは何かといった、根本に立ち返った教育を若い世代から始めるべきだ。

人材育成に危機感もて

東京大学は昨年6月、AI専攻の寄付講座を開設した。トヨタ自動車パナソニックなど8社が9億円を出し、50人の学生が学ぶ。特任教授に就いた中島秀之・はこだて未来大前学長は「米欧が手がけていない研究に取り組み、独自色を打ち出したい」と意気込む。

AIに必要な技術は従来のIT(情報技術)とは異なる。AIの性能を飛躍的に高めた深層学習(ディープラーニング)は、膨大なデータを分析して隠れた法則性を見いだす。統計学やデータ科学、人の言葉を機械で処理する技術などがそれを支える。

だがこれらの知識をもつ人材の層は薄い。日本の大学でデータ分析を学ぶ学生は米国の7分の1、英、仏などの半分にとどまる。世界の学術誌に載ったAI論文は欧州が3割、米中が各2割を占めるのに対し、日本はわずか2%だ。

こうした状況に政府や大学、産業界は危機感をもつべきだ。

滋賀大学は4月、国内初の「データサイエンス学部」を新設する。多くの大学は入学者の減少に直面し、学部や学科の新増設は難しい状況にある。しかし時代に合わせて学部などを再編し、社会が求める人材を育てることは、大学自身の生き残り戦略にもなるはずだ。

企業でも、AIを応用した製品・サービスを開発し、提供する人材の育成が急がれる。

2013年、データ分析の専門家を育てる民間団体「データサイエンティスト協会」が発足し、会員は64社・5200人まで増えた。だが十分な数とはいえない。社会人がAIを学べるような再教育の場を拡充する必要がある。

ネットの活用は有効な手段になろう。米国では大学の授業を誰でも受講できる「大規模公開オンライン講座(ムーク)」が、「プログラミング」や「機械学習」などAI関連の授業を100以上も提供する。社会人を含めてそれぞれ数万人の受講者を集めている。

日進月歩のAI技術は教える側の人材も不足している。ネット講義は教師一人で大勢を教えられるほか、受講者一人ひとりの理解度をAIで分析しながら効率的に進められる。日本でも積極的に活用すべきだ。

45年にはAIの能力が人知をしのぎ、多くの職業がAIに取って代わられる――。こんな予測もあるなか、AIの上手な使い手を育てる教育も欠かせない。

大阪市の追手門学院大手前中学はロボットコンテスト世界大会への出場で常連校だ。授業にロボットやプログラミング教育を積極的に取り入れ、AI時代を見据えた人材育成も視野に入れる。

若い世代から倫理教育

福田哲也教頭は「ロボットはあくまでも教材。答えがひとつでない課題を生徒に考えさせ、創造力を養うことが目的だ」と話す。

20世紀半ば、SF作家アイザック・アシモフはロボット開発の原則として(1)人に危害を加えない(2)人の命令に従う(3)ロボットが自身を破壊しない――の3つを唱えた。根底にあるのは技術は人が使うものという人間本位の思想だ。

AIについても、こうした原則を若いころから教える必要がある。将来、AIが人を代替する仕事は増えるだろうが、最後に人が判断すべき領域は残る。「AIも万能ではない。その結論をうのみにしないように教えることが大事」と指摘する専門家も多い。

文部科学省は20年度から小学校でプログラミング教育の必修化を検討している。知識や技能を教えるだけでなく、人と機械の役割分担を考え、AIを使ううえでの倫理を養うことも重視すべきだ。

AI利用のルールについて社会的合意を得ることも欠かせない。AIが分析対象とするデータは個人情報を含み、保護と利用のあり方に課題を残す。学会や産業界が指針を示し、利用者らと議論の場を設ける必要がある。

(おわり)

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