理想を追い求めたオバマ政治の8年 - 日本経済新聞
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理想を追い求めたオバマ政治の8年

政治に必要なものが2つある。理念と実行力だ。どちらが欠けてもよい政治はできない。去りゆくオバマ米大統領の評価はにわかには定まるまいが、反知性主義が勢いを増す時代にあって「核兵器なき世界」などの高い理想を掲げ、米国の良識を世界に示したことは大きな足跡といえよう。

「民主主義の維持には、相違を超えて結束することが重要だ」

自宅があるシカゴでのお別れ演説でオバマ氏はこう強調した。2004年に「黒人の米国や白人の米国があるわけではなく、ただアメリカ合衆国があるだけだ」との演説で名をなしたオバマ氏の原点を再確認すると同時に、より幅広く世界の連帯を呼びかける狙いがあったようだ。

話し合えば分かり合える。オバマ氏のナイーブともいえる外交姿勢はしばしば弱腰と批判された。演説ではキューバとの関係正常化やイランの核合意などを例示し、「高すぎる目標」をなし遂げたと強調した。

ノーベル平和賞に輝いた核軍縮は尻すぼみに終わったが、初の被爆地ヒロシマ訪問に踏み切ったことは日本人の心に感銘を与え、日米の真の和解への一歩となった。

内政での成果も小さくない。リーマン・ショック直後の就任だったが、1カ月足らずで約8000億ドル規模の景気対策法を成立させ、世界恐慌への拡大を防いだ。主要国でいち早く不況を脱したことで、対応の的確さが過小に評価されているのは皮肉である。

医療保険制度改革(オバマケア)により、約2000万人の無保険者に救いの手をさしのべた。保険料の上昇への中間層の不満がトランプ政権の誕生を促した面はあるが、雇用不安に苦しむ人々の安全網の強化になったことは間違いない。次期政権でも制度の一部は存続する見込みだ。

保護貿易に傾きがちな民主党の大統領にもかかわらず、環太平洋経済連携協定(TPP)に前向きに取り組んだことも評価できる。

上院議員1期目の途中で大統領になり、既成政治の壁を壊す実行力が十分だったとはいえない。レガシー(政治的な功績)の多くはトランプ政権で覆されそうだ。

だとしても、理想を追い求めたオバマ政権の2期8年は決して無駄な時間ではなかった。「イエス・ウィー・キャン」。お別れ演説はかつて世界を熱狂させた言葉で締めくくられた。

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